
「案ずるより産んじゃう性格。とりあえず一歩、リサーチもせず進んで、やり始めてから考える。今回もそれでした。年齢を重ね、ストレスから遠ざかりたい一方で、抵抗に対して向かっていく力が、わたしには必要だと思っています」(堀井)
『泥流地帯』や『羆嵐』 何よりも、選ぶ演目が過激
堀井が深作と初めて出会ったのは、コロナ禍の2020年秋にさかのぼる。それ以降、堀井自身が読み手となる朗読劇の公演で、深作とタッグを組むことになった。深作はその理由を語る。
「まず何よりも、選ぶ演目が過激で、びっくりした。嬉しくもありました」
最初に堀井が選んだのが『母』。小林多喜二の母・セキを語り手とした三浦綾子の小説だ。秋田の小作農家に生まれ、多喜二を生み、非業の死を遂げた彼を誇りに思い、信仰に救いを求める。深作は続ける。
「その後も『泥流地帯』(十勝岳爆発泥流災害を題材にした三浦綾子の小説)や、いま年末の上演に向け取り組んでいる『羆嵐』(史上最悪の獣害事件を基にした吉村昭の小説)などとつながるのですが、なんで社会的な難しい作品ばかり、敢えて選ぶのか、と」
たしかに、堀井が「一人朗読会」で取り組んだ作品もそうだった。芥川龍之介『羅生門』、太宰治『燈籠』、小川未明『赤い蝋燭と人魚』……。重厚かつ、堀井曰く「暗闇の中の明かり」の風景があるものばかりだ。堀井は語る。
「作品選びに関しては、わたしが決め、著作権の許諾申請を行うのですが、最初は女性が強く生きる話を探しました。『母』に出合ったのは、親友から『三浦綾子も面白いよ』と薦められ、図書館で『塩狩峠』『銃口』と読み進め1週間経ったころ出合ったんです。34歳まで秋田で暮らした多喜二の母・セキさんの言葉は、故郷秋田の母や祖母の語りかたそのものでした」