「Back door night」1987年2月4日放送

 明菜の著書を執筆する際に一から聞き直したというスージーさんが、一番最初にあげたのは、「夜ヒット」で87年に放送された「Back door night」だ。「セカンド・ラブ」(82年)、「禁区」(83年)、「DESIRE -情熱-」(86年)といった誰もが知る大ヒット曲ではないセレクトだ。

「今回の番組でも放送される予定のものです。明菜作品の中で一番、文字通り不思議な『不思議』というアルバムに入っている一曲です。ボーカルの声が奥まっていて、エコーがきいている。買った人から『聞こえない』『不良品ではないか』とクレームが殺到したという作品。86年の夏に発売されて、非常に実験的です」

 そんな一曲をスージーさんがあげた理由は?

「『Back door night』は曲も不思議で、かなりアート。『夜ヒット』でのパフォーマンスは、アイドルでもなければ、歌謡曲でもない、80年代の最も不思議で実験的な世界を表現していて、ある意味で歴史に残るパフォーマンスかなと思います」

 いまこそ見るべき理由を、こう話す。

「『夜ヒット』では、動く“不思議”を目で見ることができ、“あぁ、こういうことを表現したかったんだ”とわかりました。歌も堂々としたもので、ファッションもおしゃれで、必見です。明菜は誰もが知るヒット曲『少女A』や『DESIRE~情熱~』で語られることが多いのですが、アナザーサイドとして、アルバム『不思議』がある。当時を知らない人がこれを見たら驚くと思います。50万枚ほど売れたものの、聞き込んでいる人も多くはないはずですし」

「飾りじゃないのよ涙は」1987年12月30日放送

中森明菜のシングル「飾りじゃないのよ涙は」(ファン私物 撮影/中村隆太郎)
中森明菜のシングル「飾りじゃないのよ涙は」(ファン私物 撮影/中村隆太郎)

「飾りじゃないのよ涙は」は、今回の番組では84年11月19日の放送回の映像が流れるが、スージーさんが選んだのは87年末だ。

「87年の大晦日前夜に放送された『夜ヒット』。年末の特別番組みたいな感じの企画ものではあるのですが、このときの明菜は『飾りじゃないのよ涙は』を井上陽水と玉置浩二を後ろに従えて、堂々と歌い上げるんです。この瞬間、明菜は歌謡曲とかアイドルとかの枠を飛び越え、当時絶頂を極める2人と肩を並べるような存在になった。2人の振る舞いも明菜をボーカリストとして、ちゃんと認めたようなパフォーマンスでした。このときの明菜は22歳ですが、本当に堂々としたもの。何回も再放送されているので、この『飾りじゃないのよ涙は』をご存じのファンは多いと思いますが、井上陽水+玉置浩二、その前で中森明菜が歌う――。こんな組み合わせ、普通なら勇気がなくて出来ないですよね(笑)」

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