タオタオ(中国ジャイアントパンダ保護研究センター/日本パンダ保護協会)
タオタオ(中国ジャイアントパンダ保護研究センター/日本パンダ保護協会)
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 中国では飼育下の個体数が一定数確保できたころから、飼育下のパンダに対して野生で暮らすための訓練に取り組んできた。その成功例として知られるのが、オスの淘淘(タオタオ)だ。彼は約2年の訓練を経て、野生環境という本来の「故郷」へ帰っていった。

【写真】いきいきとしたパンダたち

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 野生化訓練は、野生の環境でジャイアントパンダの母親と子が一緒に暮らすことによって、子をその環境に徐々に適応させていく、という方法をとっている。野生化訓練中にあって模範生というべき生徒は、淘淘(タオタオ)にほかならない。2010年8月3日、淘淘は生まれた時から他の子たちとは比べようもない特徴を有していた。

 誕生時の206gにもなる体重は、他の大型哺乳類動物の赤ちゃんと比べたら何ということもないが、パンダ界にあっては通常の倍ぐらいの重さがある大きい個体である。飼育下でパンダの赤ちゃんが生まれれば、飼育員の行き届いた養育を受ける。しかし、淘淘は生まれてから数日後、母親の草草(ツァオツァオ)とともに2400㎡の広さをもつ第1期野生化訓練基地に送られることになった。

 野生化訓練基地とは、自然林の一部を柵で囲んでいるエリアのことである。ここには淘淘と母親の草草との行動を観察するための監視カメラが数カ所設置してある。核桃坪基地のスタッフは淘淘をしっかりと育てていこうとする気持ちに溢れていた。

 淘淘もその期待に応えるような頑張り屋であった。生後1カ月余りで、自発的に母乳を求めて母親の近くまで這(は)っていけるようになった。4カ月も経つと木登りが可能となり、5カ月に入るとタケノコを食べるようになった。通常のパンダの赤ちゃんより活動能力が早く発達し、しかも行動が的確であり、動き方もしっかりしている。

 6カ月になった淘淘が母親との第1期野生化訓練基地での生活に慣れたころに、親子を約4万㎡の広さを有する第2期野生化訓練基地に移動させることになった。1歳になろうとする時期には、母親の真似をしてタケの葉を口に入れる行動も見せた。適正な教師である母親から、淘淘はタケノコの皮をはぎ取る方法を学習した。そして、厚い雪の下から倒れたタケを見つけ出す方法も学び、このタケは霜害(そうがい)を受けていなかったため、母親と淘淘にとって長く寒い冬を乗り越えるための最高の食糧になってくれた。

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