パンダ界のアイドル、シャンシャン
パンダ界のアイドル、シャンシャン
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 パンダ界のアイドル・シャンシャン誕生の裏には、上野動物園の飼育スタッフたちの奮闘があった。飼育展示課長として携わった渡部浩文さん(現・多摩動物公園長)に当時を振り返ってもらった。

【写真】2017年、シャンシャンも一般公開へ【かわいい】

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 シャンシャンが生まれる2017年シーズンに向けては、2012年の第一子出産から数年が経過し、リーリー・シンシンともに10歳を超える中では、自然繁殖ができるのか、人工授精の可能性があれば踏み切るべきなのか、その判断はとても重要な事項だった。性ホルモンは排卵前に急上昇(サージ)するが、弱い発情では排卵・受精の可能性も低くなる。中国の専門家ともメールでのやり取りなどを行い、リーリー・シンシンの両方の健康に留意し、来きたるべき2017年繁殖期に備えなければならない。

 繁殖適期は1年を通じて数日であるが、その準備のための時間は驚くほど速く過ぎ、2016年秋口にシンシンの発情は見られなかったが、12月にはリーリーの発情兆候が見られるようになった。繁殖期に向けた準備は急を要するのである。この間も新しいジャイアントパンダ舎「パンダのもり」の設計などの協議のほか、行動観察等に重点を置くために飼育担当者が行ってきた性ホルモン測定の検査を委託するための準備、人工授精実施のための物理的な準備に加え、都庁関係者との協議(報道関係への公表準備など)もあり、課題は山積していた。そのような中でも飼育担当者だけでなく、動物病院のスタッフが着実に準備を進めていたことは本当に心強かった。

 2017年シーズンは、2月22日に展示中止となったが、2016年と同様、性ホルモン測定や生殖器の上皮細胞の観察などは継続しており、シンシンの繁殖適期の見極めに細心の注意を払っていった。膣の上皮細胞は性ホルモン分泌の影響を受け細胞核の様子が変化するが、この時の状況はまさに教科書通りの変化を見せていた。また、糞/血中のホルモンデータも良い傾向が見られていた。一方、シンシンの食欲や行動については、顕著な変化がなかなか現れず、難しい局面でもあった。

 中国の専門家の来日手続き前後にも、各種データを提供して意見を求めていたが、過去数年の弱い発情の状況から、2017年も同様の経過となる可能性も否めず、なかなか来日の決定ができない状況となった。細胞診では排卵が予想されるXデーは2月下旬と見られていたが、展示を中止してからの2頭の柵越しのお見合いではシンシンの明らかな繁殖の受け入れ行動が見られない。

 一方、リーリーは、シンシンに対して強い興味を示し、鳴き声を発する、臭い付けをするといった行動の頻度が増えていった。わずか数日のうちに、シンシンにも行動量が増える、リーリーの鳴き声に応える、体の一部を水に浸ける、臭い付けをするなどの変化が観察されたが、オスの受け入れについては判断をしかねる部分があった。

2017年12月、シャンシャン一般公開へ。お母さんのシンシンに運ばれるさまも愛らしい
2017年12月、シャンシャン一般公開へ。お母さんのシンシンに運ばれるさまも愛らしい
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