
定年退職後は海外に移住して年金暮らし。南国のリゾート地でゴルフ三昧。そんな悠々自適な老後に憧れる人も少なくないだろう。だが、その夢の実現は、どんどんハードルが高くなっているのが現実だ。
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海外に移住するなら、その国が発行するビザ(査証)を取得しなければならない。長期滞在や永住するためのビザは国によってさまざまで、一定以上の資産を投資して長期滞在が可能となる「投資家ビザ」、現地で起業する人のための「起業ビザ」、リモートワーカー向けの「デジタルノマドビザ」、親子留学のための「保護者ビザ」、留学のための「学生ビザ」、そして一定の収入と資産が要件の「退職者ビザ」などがある。
「世界的にビザの申請条件が厳しくなっています。加えて、円安が進み、円で10億円あった資産価値でも、米ドルなどの外貨ベースで評価すると6億円程度の価値に目減りするダブルパンチ状態です。海外移住は以前より難しい状況です」
そう語るのは、ビザ申請や海外での生活設計をアドバイスする海外移住コンサルタントの大森健史さんだ。
移民への風当たりが強まり、各国は移民制度を引き締めている。
「オーストラリアでは投資永住権が2023年に、スペインでは不動産購入が条件のゴールデンビザが今年4月に、それぞれ廃止になりました」(大森さん)
また、最近ではアメリカ・トランプ大統領が、80万米ドル(約1億2千万円)以上の投資で永住権が取得できる投資家ビザ「EB‐5」を廃止して、500万ドル(約7億5千万円)の支払いが必要な「トランプ・ゴールドカード」を開始すると表明。今年6月に申請の事前登録が始まったと報じられている。いま、移住事情は激変しており、そのハードルはますます高まっている。
「定年後の海外移住も例外ではありません」と大森さんは言う。
定年退職後の高齢者を対象とした「退職者ビザ」は、国によって要件は異なるが、多くは「50歳以上」「一定の収入や資産」「良好な健康状態」などの基準がある。だが、要件の厳格化や制度変更が相次いでいる。
「オーストラリアでは以前、退職者向けビザがありました。04年当時、約3千万円(35万豪ドル)以上の資産と年間400万円(5万2千豪ドル)以上の収入などの条件を満たせば、4年滞在のビザが下りました。その後、条件がアップしながらも申請できましたが、移住者が増えすぎたため、18年に新規申請が停止されました」