
会社員にも手が届きそうな制度が、次々に改定されている。マレーシアの「マレーシア・マイ・セカンドホーム」(MM2Hビザ)は、かつては庶民でも要件を満たせる制度だった。20年時点では50歳以上で、約900万円の預金、約400万円の投資(定期預金でもOK)、月収約24万円で、最長10年の滞在が可能だったのだ。
だが、21年秋から数回にわたって条件が引き上げられた結果、現時点で一番低い申請条件でも約2200万円の定期預金、約2千万円以上の不動産購入が必要となり、滞在期間は5年に短縮された。
「いわゆる上級国民しか申請できなくなりました」(大森さん)
同じビザで滞在期間が長い条件だと、定期預金100万米ドル(約1億5千万円)と200万MYR(約7千万円)の不動産購入で20年滞在が可能になったが、庶民にはハードルが高すぎる条件だ。
そんななかでも、まだ手が届きそうなビザも残っているという。
たとえばタイの「タイランドプレビレッジカード・ビザ」(通称VIPカード)は居住許可を購入できる。一番安いものだと約300万円を支払うだけで最長5年間滞在可能となるカードが取得できる。
「2カ月ほどで取得できますし、比較的安全で、物価が高くないところがポイントです」と大森さん。
タイには退職者層が申請できる「LTRビザ」もある。申請者が50歳以上で、年収4万米ドル以上の収入があり、25万米ドル以上の不動産購入や健康保険などの医療保険に加入している人が条件で、最長10年の滞在が可能だ。しかも海外所得が非課税という点も人気で、世界中から富裕層が移住してきている。
ただ、上記のようなビザのポイントは「申請条件」がころころと変更されること。前述のタイランドプレビレッジカード・ビザの場合は、期間経過後に条件が変わっている可能性があるのだ。そこにリスクがあると大森さんは言う。
「近年は制度の変更が目まぐるしく、予告なしに変わることもあります。次の更新時に、ビザがなくなっている可能性もあります。更新できなくなったら、日本に帰る可能性も考えておかなければなりません」
しかも、日本の物価が停滞していた間に、ほかの国はほとんど右肩上がり。海外での生活コストは、昔ほど安くない。
「いっそ、日本の地方に移住するのも一つの選択です。東南アジアでも都市部では家賃が月に10万円を超えることがありますが、日本の地方なら同じ予算で、広くて快適な物件に住めます。海外に行きたいなら、数カ月の観光ビザを使って滞在してはどうでしょう」(大森さん)
(AERA編集部 井上有紀子)
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