吉田修一さんによる長編小説「国宝」(photo  写真映像部・新崎美菜子)   
吉田修一さんによる長編小説「国宝」(photo  写真映像部・新崎美菜子)   

原作だけの魅力あるキャラクターも

 もう一つは、映画のティザービジュアルのキャッチコピーに「その才能が、血筋を凌駕する」とあるとおり、映画は喜久雄と俊介の物語として、血筋と才能が、それぞれ見せ場を演じつつ(積恋雪関扉、連獅子、二人道成寺、曽根崎心中、鷺娘)、互いの演技を超えながら進んでいく。喜久雄が「俊ぼんの血いをがぶがぶ飲みたい」という印象的なセリフがありますけれども、原作では、喜久雄もまた自らの血筋に縛られているところがあって、市駒(映画では藤駒)との間にできた綾乃との関係がしっかり描かれています。

 さらに、原作には映画では描ききれなかった徳次と辻村というキャラクターがいて、いわゆる「盃を交わした」関係性として、血よりも濃い、血筋を超えた結びつきが描かれている。前者は徳次による綾乃の救出劇とラストに向かうシーンとして、後者は辻村への恩に報いるため、ガサ入れが入ると分かっていながら辻村主催の宴席で演じた喜久雄の覚悟が千五郎に認められ、再び梨園に戻るシークエンスです。いずれも、かなり心を動かされるシーンなので、ここはぜひ原作で読んでほしい場面ですね。

(構成 AERA編集部・三島恵美子)

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