AERA 2025年7月14日号より
AERA 2025年7月14日号より

 だが、鈴木さんは、「核の傘に入ることが、むしろ“核のターゲット”となるリスクを高める」と警告する。

「米国と合同軍事演習を行う日本や韓国は、世界から事実上、米国と一体化していると見なされています。例えば、中国が米国と戦争する際、米国本土を攻撃すれば核戦争に拡大する恐れがあるので直接は攻撃しません。そこで格好のターゲットになるのが、日本や韓国にある米軍基地です」

 しかも、日本が攻撃された場合、米国は「必ず撃ち返す」といっているが、その保証はない。鈴木さんは言う。

「そもそも、核を一発でも撃たれれば、大変な被害を生じます。核の傘は幻想です」

 26年2月には、米ロ間で唯一残る核軍縮の枠組み、新戦略兵器削減条約(新START)が失効する。失効後、米ロとも、核兵器の実戦配備を増やす可能性がある。だが、「核には核を」の理論の先には破滅しかない。核をなくすにはどうすればいいか。

 鈴木さんは、「核抑止に依存しない安全保障政策を考えることが重要」と説く。

「そのためにコミュニケーションが大切。相手がいつ、どういう核兵器を使うか、何発の核兵器を持っているのかわからなければ核の脅威が増します。まずは、核兵器の使用リスクを下げるための対話を始めることです」

日本が議論主導を

 対話を重ね、各国が核抑止力に依存するのは危険だと認識する。そこから段階を踏みながら、最終的には核兵器を「ゼロ」にしていくことが重要だという。

 その考えを鈴木さんは「嫌煙権」に例える。かつて喫煙が当たり前だったが、健康被害が明らかになるにつれ、非喫煙者の権利が重視され、公共の場での喫煙が制限されるようになった。同様に、「抑止力は実は有害である」という認識を各国が認識し思考を転換させていくことが、核廃絶への第一歩となるという。

 その上で、鈴木さんは日本のリーダーシップが求められているという。例えば、日本がホスト国となり核保有国、核の傘の国、非核保有国を招いて「核兵器サミット」を開催する。あるいは、日本政府が「核抑止への依存は危険だから減らしていくべきだ」と正式に表明する。そうした行動を通じ、日本が核なき世界に向けた議論を主導すべきだと強調する。

「唯一の被爆国である日本は、今こそ核なき世界を目指す国際社会の先頭に立つべきです」

 核に頼る平和は、脆く危うい。日本は今、その転換点に立っている。

(編集部・野村昌二)

AERA 2025年7月14日号より抜粋

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