長崎大学客員教授でNPO法人ピースデポ代表の鈴木達治郎さん。「核の傘に守られているというのは幻想」
長崎大学客員教授でNPO法人ピースデポ代表の鈴木達治郎さん。「核の傘に守られているというのは幻想」
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 イスラエルによるイラン攻撃、インドとパキスタンの軍事衝突。いつ核兵器が使われるかわからない状況は、日本にとっても他人事ではない。AERA 2025年7月14日号より。

【図】核兵器使用シミュレーションで見えてくる総爆発回数と死者数

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 ひとたび核が使われたらどうなるのか。

 長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA=レクナ)は23年3月、北東アジアでは初めて「いま、この世界で核兵器が使用された場合」に想定される被害のシミュレーション結果を発表した。米韓のシンクタンクと共同で行ったプロジェクトで、北東アジアにおける核兵器使用の影響を検証する五つのケースでシミュレーションを示した。シミュレーションは「テロリストによる核使用」「ウクライナ侵攻」「台湾有事」などを想定。そこで明らかになったのは、従来の想定をはるかに上回る甚大な被害と、日本も攻撃の標的にされるリスクだった。

 例えば、「テロリストによる核使用」では、東京でテロが起きた時は、1発の核で22万人が亡くなると見られている。使われるのはTNT火薬に換算し広島、長崎に投下された原爆より小さい1発だが、人口や建造物が密集した地域のため被害は大きくなると予測されている。

 最も多くの犠牲が出るとされたのは「台湾有事」だ。

 台湾で独立を目指す政権が誕生したことを機に、中国が軍事侵攻を開始。これに対し米国が台湾に大規模な部隊を送り、中国と交戦状態に突入する。劣勢となった中国はグアム、佐世保(長崎県)、嘉手納(沖縄県)にある米軍基地を核で攻撃。米国も核で応戦し、米中合わせて24発の核兵器が使われ、数カ月間で260万人が死亡するとされる。

 プロジェクトのメンバーだった長崎大学客員教授で、平和・軍縮問題に取り組むNPO法人ピースデポ代表の鈴木達治郎さん(核軍縮・不拡散)は、「核兵器が使われた場合、『核の傘』の国がターゲットになる」と警鐘を鳴らす。

核のターゲットになる

「核の傘」とは、核を持つ国が同盟国への攻撃を防ぐとする安全保障の仕組みだ。米国は、日本や韓国などアジアの同盟国に「核の傘」を提供する。もし日本が攻撃されれば、米国への攻撃と見なし、核を含むあらゆる手段で反撃する立場をとる。日本への攻撃を思いとどまらせる「抑止力」として機能させる狙いがある。

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