この騒動に関してはさまざまな憶測が飛び交い、報道もあらゆる方向からなされました。木村1人が事務所に義理立てした一方で、メンバー4人が"造反"したと見る報道があったり、それとは逆に4人を擁護、木村を"裏切者"とする声が飛んだり。さらには木村が残留を決めた背景には妻・工藤静香の提言があった、という報道もなされました。そしてこの騒動を「夫婦」から読み解いたものも。それが、エッセイストの河崎環さんによる著書『女の生き様は顔に出る』に収められた「工藤静香の"嫁ブロック"を尊重する、キムタクの男前」と題した章です。
河崎さんによると、嫁ブロックというのは「2016年の年明けからちらほらとメディアで取り上げられていた言葉」だといい、次のように説明しています。
「転職活動をする男性が、内定を手にしたあとに妻の反対を受けて辞退する現象を呼び、拡大が加速する転職市場での業界用語だった。それが年初の新聞で『嫁ブロックで男の挑戦がくじかれる』といったような報道がされ、『嫁ブロックとはなんぞや』『妻たちが夫の転職を反対する理由がふざけている』『年収ダウンや東京からの都落ちがイヤだとか、大手有名企業の名を失うのがイヤだとか、結局見栄でしかない』とネット界隈が沸いた」(本書より)
しかしこの「嫁ブロック」に対する河崎さんの見方は、そうしたネット上の声とは違っている様子。著書で次のように指摘しています。
「連れ添っている妻だからこそ分かる夫の適正や、そもそも転職を志した原因となる葛藤、その転職は本当に『挑戦』なのか、それとも『逃げ』なのか、妻の仕事や子どもの教育と友人関係、実家や義両親や親戚との距離など、妻のほうが周りが見えていることは大いに考えられる」(本書より)
その上で、次のように断じます。
「家庭を持つとは、家族が同じチームとなって一つのゴール、『幸せ』を今後の人生を共にして実現しにいくことであり、みながステークホルダーになることであり、だからチーム内の移行調整が必須なのだ。もし、『嫁ブロック』を受けた夫がそれを恥ずかしく思ったり、不満を膨らませたりしているとすれば、その夫と妻が見ている方向はバラバラだ。すなわち、調整が失敗しているということであり、家庭内チームワークは危機なのである」(本書より)
そしてここで登場するのが、SMAP解散騒動。この騒動で、SMAP唯一の既婚者である木村拓哉、そしてその妻・工藤静香という夫婦に注目すると、こんな風に見ることができるのだそう。
「妻には妻の、夫には夫の意向や言い分があり、それを話し合いで調整して初めて、夫婦として機能する。だから、工藤静香の『嫁ブロック』をのんで(もちろんそれだけが理由ではないと思うけれど)事務所残留を決め、あとはじっと口をつぐむキムタクは、仕事人としても家庭人としてもさすが一流。その男前ぶりに改めて惚れる」(本書より)
なるほど、そこに見えるのは、仕事での大きな決断に関しても妻の意見をしっかり聞き、その声を受け止める夫・木村拓哉の姿。彼がただ一人残留を決めたことへの賛否はいまだにありますが、「夫婦」、そして「妻」という立場から見ると、また違った風に受け止めることができそうです。
本書にはこのほかにも様々な話題を「女」という立場から見つめたエッセイが詰まっています。「アラフォーの私たちは吉田羊の夢を見るか?」「Blendyの『揺れる胸』炎上CMは何が悪かったのか?」「東村アキコ『ヒモザイル』は何がアウトだったのか」などなど、昨年話題となった出来事を、河崎さんが「女」の立場で斬っていきます。「そういう見方があったか!」「だからもやもやしたのか!」と、さまざまな気づきをもたらしてくれそうな一冊です。