1980年5月18日、韓国の南部光州では、民主化を叫ぶ学生や市民が軍によって無惨に殺される事件が起きた。小説家ハン・ガンは、この事件が人々の心に残した傷痕を繊細な筆致で描き出した。
軍に親友を殺された少年、なぜ殺されたのか、誰に殺されたのかも分からず死んでいったその親友、なぜ自分だけが生きているのか苦しむ人、拷問の記憶から逃れられない人。著者は事件後の人々に焦点を当て、彼らの癒えない傷を見つめる。
だが、これは光州だけの問題ではない。このような暴力は光州事件の前にも後にも繰り返されてきた。済州島で、関東と南京で、ボスニアで、全ての新大陸で。人類の「遺伝子に刻み込まれた」ように繰り返される残忍性と、私たちは向き合わなければならない。二度とこんなことが起きないように。 (すんみ)
※週刊朝日 2017年1月20日号