イランの最高指導者・ハメネイ師(左)、アメリカのトランプ大統領(写真:AFP/アフロ)
イランの最高指導者・ハメネイ師(左)、アメリカのトランプ大統領(写真:AFP/アフロ)

 イランは主権国家であり、国際法やNPTで保障される原子力の平和利用の権利があります。アメリカの姿勢は次第に独断的になり、イランが平和利用する権利そのものを否定しヨーロッパも同調してきました。日本など他国が当然のように享受している原発の設置やウラン濃縮の権利をイランだけが危険とされ爆撃されることは、NPTの趣旨を捻じ曲げる行為です。単なる疑念だけで一国の権利が侵害される状況は明確なダブルスタンダードであり、本来ならば査察など平和的手段で解決されるべきでしょう。現在の国際秩序は1945年の戦勝国が国連の常任理事国として、強者が優遇される構造となっており、不公正が制度的に固定されているのは問題です。

 他のアラブ諸国に目を向けると、イスラエルのガザへの大規模攻撃以降アブラハム合意の国々もイスラエルに対して批判的でした。この流れでイスラエルの対イラン空爆でもイランへの同情が一時的に広がりました。しかしアメリカが参入しイランを爆撃した後、イランもカタールの米軍基地へ反撃したことで風向きは変わりました。イランの反撃の狙いは物的被害を与えることだけなのでカタールへも事前通告をしましたが、同国の主権を侵害した形となりアラブ諸国の一部からイランへの同情が後退しています。またこのことでイランがペルシャ湾岸の米軍基地やサウジアラビア、UAEなどを標的にできる能力が示され、これまで潜在的脅威とされてきたイランの影響力が現実となり周辺国にさらなる緊張が生まれています。しかし忘れてはならないのは挑発なしの先制攻撃をしたのはイスラエルとアメリカだという紛れもない事実です。

(構成/ライター・濱野奈美子)

AERA 2025年7月7日号

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