1万3千円の自転車旅行(写真/本人提供)
1万3千円の自転車旅行(写真/本人提供)

 でも、ここでも「何事も考え抜き、工夫する」で成功する。社員食堂では、新日鉄の出向者の行動から、ヒントを得た。終業時間が近づくと内線電話で連絡を取り、退社すると飲みにいく。「これはビジネスになる」と確信し、社員食堂に午後5時から酒類やつまみも置き、飲み放題のバイキングとした。1日の売り上げは「すかいらーく」1店の1カ月分くらいに達する。2000年1月には、ニラックスの社長に就いた。

 一方のすかいらーくは、90年代に入って「店を出せば出すだけ利益が出る」の神話がバブルとともに崩壊し、業績は悪化していた。集客に低価格路線を採り、720店あった「すかいらーく」の過半を新ブランドのファミレス「ガスト」へ転換するが、業績は思うように伸びず、「ファミレスの賞味期限は切れた」とまで言われる。

 そんななか、親しかった創業家の一人に「戻ってこい。何とか立て直せ」と言われ、07年1月にすかいらーく執行役員を兼務し、10月に常務執行役員となって営業本部を動かす。翌08年8月、社長に就任。社員約4千人へ「再建ではなく、新しい会社をスタートさせる」との発信を続け、客の嗜好の変化を読み取った専門店型の新業態をつくり、成長軌道へ復活させていく。この間、200店を閉め、300店の業態も変えた。

 2018年3月に会長兼社長となり、5年後に社長の座は交代し、会長・CEOに就いた。本当はもう退くつもりだったが、コロナ禍で「食」の市場がすっかり変わり続投した。コンビニの食事の水準が上がり、宅配で夕食ができる。そんな状況へどう対応していくか。

 もちろん、「何事も考え抜いて、工夫する」という『源流』からの流れを、さらに広げていくだけだ。

(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2025年7月7日号

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