小さな町にとって、大企業の工場がもたらす税収は生命線だ。地場産業が浮上するきっかけでもある。「多文化共生」施策ばかり注目され、豪放磊落(ごうほうらいらく)なイメージがあるが、村山にはこういう細かい計算もできる。
「元気な方なんですが、元気という言葉だけで収まりきらない。私にはアントレプレナー(起業家)の匂いがする方です。きっと、なにかを生み出す、新しいことをするのがお好きなんじゃないかと思います」(水野)
2023年11月の第4日曜日。広場で町の観光名物となったイベント「活きな世界のグルメ横丁」が開かれた。町内にはレストラン、物販など12カ国61店舗の「インターナショナルショップス」があり、その中から50店舗ほどがテントや移動販売車で一日限りのマーケットを催す。サンバショーなどもあって賑やかだ。10年から始まり、多いときは近隣からも約3千人のお客さんが来たという。
村山が会場入りすると、あちこちの屋台から、
「町長さん、コンチワー」
と、声が掛かる。ほぐした鶏肉をジャガイモで包んで揚げた「コシーニャ」というブラジルのコロッケを買う。食べ歩きしながらまたあちこちの屋台に顔を出す。なかには急に相談事を始める人もいる。
「わかったわかった、あとで役場に電話して」
笑顔で別れてまた別のテントに「よう!」と顔を突っ込む。
村山はときおり「俺の町」という。見方によればヒヤッとする物言いだが、それは権勢を誇るのでなく、自分の責任感についての矜持(きょうじ)だろう。そもそも考えてみると、町の2割を占める外国籍住民は選挙権をもっていないのだ。票にならない人々が住みやすいように走り回る。批判を受けてもへこたれない。なぜならここが「俺の町」だから。
(文中敬称略・肩書きや年齢などは掲載当時)(文・神田憲行)
※AERA 2024年2月5日号「現代の肖像」
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