米軍は手痛い打撃を

 イラク戦争のように、米軍主導で大規模な地上侵攻をすれば、一時的にテヘランを占領することは可能かもしれない。しかし、イラク戦争の例を見れば、占領は民衆の抵抗で失敗し、米軍は手痛い打撃を受けることは必至だ。

 さらに現在のイラン人口は9200万で、イラク戦争時のイラクの3・5倍。イラクで反米闘争をしたスンニ派は全体の30%程度だったが、イランのシーア派は9割以上であり、米軍が大軍をつぎ込んでも、占領の維持は不可能だ。

 一方で、大規模な空爆だけではイスラム体制は倒れない。この1年8カ月の間、狭いガザに10万トン以上の爆弾を落としても、イスラム組織ハマスの支配が崩れないことを見れば分かる。

 逆に米国が空爆に参加すれば、カタールにあるアルウデイド米空軍基地が攻撃されかねない。さらに、イランが「検討中」とする原油輸送の要所ホルムズ海峡を封鎖すれば、世界経済への影響は破壊的である。

イラン攻撃の正当性は

 そもそも、イスラエルのイラン攻撃に正当性はあったのかが問われなければならない。

 ネタニヤフ首相は「イランは短期間で核兵器を製造できた」と攻撃を正当化しようとする。G7首脳会議では「イスラエルの自衛権を確認する」との声明を出し、事実上、イスラエルの攻撃を認めた。

 しかし、今年3月、CIAやFBIを含む米国情報機関が参加して、ギャバード国家情報長官が発表した「年次脅威評価」で、「イランは核兵器を製造していないと引き続き評価している。最高指導者ハメネイ師は03年に停止した核兵器計画(の再開)を承認していない」と明示していた。

 ギャバード長官はトランプ大統領にイスラエルのイラン攻撃を承認しないように働きかけていたとされる。トランプ氏がG7首脳会議から米国に戻り、イラン攻撃に参戦するかもしれないという情報が流れた時、メディアからギャバード氏のことを質問されて、「彼女の言うことは気にしない」と答えた。

 ネタニヤフ首相がイランの核の脅威を誇張して、米軍をイランの「体制転覆」に巻き込むならば、米国はイラクの大量破壊兵器の脅威をでっち上げて強行したイラク戦争と全く同じ過ちを犯すことになりかねない。

(中東ジャーナリスト・川上泰徳)

AERA 2025年6月30日号

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