AERA 2025年6月30日号より
AERA 2025年6月30日号より

 ハアレツ紙はイラン攻撃前にイスラエル政府が様々な偽装工作を行っていたと報じている。15日に予定されていたイスラエルとハマスの停戦協議のためにモサド長官らがカタールに向かう準備が進み、16日にはネタニヤフ氏の息子の結婚式の準備も予定通り進んだ。しかし、イラン攻撃の実施は9日に首相と国防相の間で決まり、その後の動きはすべてイランに攻撃を悟らせないための工作だったという。

武力による体制転覆は

 トランプ大統領が事前に攻撃を承認していたとすれば、15日から予定されていた米イランの核協議を前にイラン攻撃に反対を表明したことも、偽装工作の一部ということになる。

 さらにトランプ大統領はG7首脳会議後に軍事参加に方針を転換したのではなく、もともとの意向だったかもしれない。

 米軍参戦となれば、イラン中部の地中深くにあるフォルドウ・ウラン濃縮サイトの破壊が可能になる。地中深く到達するバンカーバスターと呼ばれる地中貫通爆弾とそれを運ぶ大型爆撃機は米軍しか所有していないからだ。

 しかし、イランの核施設をすべて破壊しても、イランの核開発を阻止することはできない、というのが核専門家の見解であり、5年以内に回復するという。

 そうなると、トランプ大統領がいう「本当の終結」は、イランの体制転覆を意味するのではないかという見方が出てくる。

 しかし、武力によるイランの体制転覆は可能なのか。

 21世紀に入って、中東での体制崩壊は次の3例がある。

▽03年のイラク戦争で米軍が打倒したイラクのフセイン政権

▽11年の「アラブの春」で民衆デモで倒れたチュニジア、エジプト、リビア

▽24年のシリア内戦で反体制武装組織に打倒されたシリアのアサド政権

 イランでもイスラム宗教者が支配する体制に批判的な民衆は多い。しかし、主力は穏健改革派であり、彼らが求めているのは民主化であって、体制転覆や宗教者勢力の排除ではない。一方で体制を支持する民衆も多く、民衆デモで体制が倒れる状況にはない。さらに、イスラエルや米国が「体制転覆」を呼びかけても、改革派は体制維持で結束することになるだろう。

次のページ イラン攻撃の正当性は