
後ろ指をさされても、「知るか!」って
――周りの人が設定する基準に違和感があったんですね。
そのあと年を重ねて、こっちで生きるようになって、「僕は正直に生きるほかないわ」って諦観が勝ったんです。そうするとどんどん生活がしやすくなっていきました。
――一度諦めたということですよね。
そうです。諦めました。今まで付き合いのあった人たちに、「諦めて、自分に正直に生きていきます」と伝えました。みんな離れていくだろうなと思ったんです。
でも、「それがいい」「好きに生きたらいい」と背中を押してくれて、予想外の反応でした。
若いころは、「立派に思われたい」「すごい役者だと思われたい」というのがあったけど、今は何を誰に言われようと、どうでもいいって。後ろ指をさされても、「知るか!」って(笑)。

人って、意外と他人がどうしようと気にしないんです。私自身も誰がどう生きていようと、何とも思わない。そう気付いたときに、「日本アカデミー賞に呼ばれるような役者であらねば」みたいな考え方ってあまり意味がないんだなって思えて。毎日の生に感謝しながら暮らせることのほうが、当代随一の役者だと言われることより幸せなことだと思うようになりました。