そのための一丁目一番地は、取締役の人事を第三者すなわち指名委員会がおこなう体制を整えることだ。が、会社側提案で「指名委員会等設置会社への移行」はなぜか一年後の検討事項になっている。取締役会の人事は社長ではなく、利害関係のない第三者が行うこの「指名委員会」は、ガバナンスの不在が、不祥事の源泉とされたフジにとって最優先のはずだ。指名委員会の設置を関係者が清水に直接促したが、「法律上の委員会ではない委員会からまずは始めたい」と色好い返事はなかったと聞いている。

 日航の場合は、京セラの稲盛和夫という航空産業は未経験の経営者を冨山らは当時招聘したわけだが、今回のフジテレビでは誰ならばいいのだろう。

 メディアと経営の両方がわかり、破壊的な変化に対応できる人物。

 私は福岡でFM局の経営もしている堀江貴文が最適だと考えている。これには、冨山和彦も「いいですね。ホリエモンは頭もいい」と賛成した。なんせ実刑をくらって刑務所に入っても、ターンアラウンドして事業を行っている人物だ。

 が、フジの戦略部門の事務方が「うちは堀江だけはダメなんです」とアレルギーが強いということも別の関係者が教えてくれた。

 そうであれば、例えば、フジ・メディア・ホールディングスの代表取締役社長に新浪剛史、子会社のフジテレビの代表取締役社長に堀江貴文という布陣はどうだろうか?

 新浪は、サントリーの代表取締役社長に就任して10年で売上を2倍にして、この3月25日に鳥井家に「大政奉還」して、会長職に退いたばかり。ローソンの再建も果たしているプロ経営者として信望も厚い。一方の堀江は、獄中で宇宙工学の勉強をし、出所後インターステラテクノロジズという宇宙事業も立ち上げるなど、不連続な変化の時代の舵取りに長けていると思う。メディアのこともよく知っている。

 冨山によれば「日本の終身年功サラリーマンは経路依存性にはまってそのように行動するので、経路構造を変え」れば、変わるのだという。

 そしてそうした新経営陣になれば、そもそも放送という伝送路で免許をうけることがコンテンツの会社として必要か、という議論から新しい社の形を考えると思う。ネットフリックスは放送という伝送路は使わずあれだけ大きくなっている。免許を返上すれば自由度も増す。

 そうした思考実験を真面目に行える政権が、フジにはそして日本の放送業には必要だ。

AERA 2025年6月30日号

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