動物園では、パンダなどの動物の様子は飼育日誌で知ることができた。多くの決裁書類のなかで飼育日誌は楽しみでもあった。それが退任後に読めなくなったのは寂しい。日誌は、語ることができない動物の代理体験談とも言えよう。動物を人に置きかえれば日記となる。突き詰めれば、本や書籍と呼ばれる読み物は、個々人の経験とそれに基づく知見を吐露する日記の延長にあると思う。
令和3年から日記をつけ始めた。出来事十五字、食事、自然を詠んだ五七五、そして十二日毎に植物の絵を入れる。母は日記を残した。父が早く他界したこともあって、母の影響かもしれない。パンダなど多くの哺乳動物の仔は母との時間が大切で、ここから生きる知恵を学んでいく。人も動物。気が付かないうちに母からの影響を受けている。
最後の読み物は、母の日記にしようと思う。自分が鬼籍に入れば、その日記は短い時間だが読む人がいるだろうが、母の日記は捨てられる。日記から、日常が感じられ思い出も浮かぶが、人生とは地道な積み重ねである営為の中で命を繋いでいくということが分かる。それが、動物とは異なる人の文化的進化であろう。
※週刊朝日 2023年1月20日号