
様々な事情で実の親と暮らせない子どもを安定した家庭で育てるため施行された制度「特別養子縁組」。縁組しない里親制度とは違い、養親の戸籍に実子と同じように記載され、実親との法的関係が切れる。自分のルーツをたどり、生みの母に会いに行った当事者がいる。AERA 2025年6月23日号より。
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今年1月、千葉県の会社員、中村力(りき)さん(23)は東北地方の民家をアポなしで訪ねた。通されたリビングで向き合ったのは、“生みの母”だ。想像より若く優しそうな人だった。何と呼べばいいかわからず、「あなた」と呼んだ。
「あなたがお母さんですか?」
力さんは特別養子だ。1歳の時、民間の養子縁組団体の仲介で育て親家庭に迎えられた。幼い頃から自分には生みの母がいて、育てられずに両親に託したと聞いていた。誕生日には生みの母から手紙や贈り物が届き、「プレゼントが二つもらえてラッキー」と思っていた。母とのやりとりはいつしか途絶え、「20歳になったら会いに行きたい」と思いながらも行動に移せないまま時が過ぎた。その母が目の前にいる。
生みの母は泣いていた。「私なんて会う価値もない」と謝り続けた。彼女が僕にしたことは、それほど罪深いことなのだろうか──。力さんに生みの母への嫌な感情は一切なかった。会いに来たのは幼い頃のプレゼントの御礼がしたかったのと、どう生きてきたかを伝えたかったからだ。「僕ね、今の家でめっちゃグレたんです。あなたのもとで育ったらグレなかったかもしれないです」。場を和ませようと力さんが言うと、「そんなことないです。育てのお母さんは立派な方です」と真顔で返された。