
その政府に経済政策を提言する団体の一つに経団連がある。ホームページによると日本を代表する企業1500社以上が参加しているそうだ。こうした企業が日本経済に大きな影響を与えていることは間違いないし、企業の立場から政策に意見を述べること自体に異論はない。
しかし、株主の利益ばかりを気にする企業が政策を左右するとすれば、不安を感じざるを得ない。実際に企業の利益のために円安誘導の政策が取られてきたが、恩恵は従業員ではなく株主に集中してきた。そして、その円安によって消費者は物価高で苦しむことになった。
このたび経団連は新体制になったそうだ。副会長の顔ぶれを見ても、自社株買いに熱心な企業が目立つ。しかしこれは無理からぬことだろう。株式会社である以上、株主優先の力学から逃れることはできない。
だが一つだけ希望がある。それは新たに会長となった筒井義信氏が日本生命の取締役であることだ。日本生命は株式会社ではなく、相互会社であり、会社の経営に対して文句が言えるのは、保険契約者全員だ。経営陣に対する短期的な利益を追求する圧力は弱く、安定性や社会的評価を重視することができる。
経団連の第16代会長となる筒井氏は、相互会社から選出された初めての会長だ。過去に官僚出身の第3代植村甲午郎氏が経団連事務局から選ばれた例を除けば、歴代会長はすべて株式会社の代表だった。
もし経団連内部に「株式会社」という仕組みへの問題意識が芽生え、それが筒井氏選出の背景にあるならば、日本経済が多少でも良い方向へ向かうかもしれない。株式会社自体の経営は変わらないにしても、政府への提言は消費者や従業員を優先する内容にしてもらいたいものだ。
※AERA 2025年6月23日号
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