
物価高や為替、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2025年6月23日号より。





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小学生の頃、担任の先生の存在は絶対だった。怒られたらまずいと、いつも顔色を窺っていた。株式会社の社長も実は小学生の頃の僕と似ているのではないだろうか。先生よりもさらに厳しい存在、株主の顔色を窺わなければならないからだ。先生なら監督する校長先生に相談もできるが、株主を監督する人はいない。
そう考えると、上場している株式会社が従業員の賃上げをがんばろうと思ったり、リスクを伴う成長投資に積極的になるインセンティブ(動機づけ)は働きにくい。手元にお金が余っているなら、自社株買いで株価を上げた方が手っ取り早い。確実に株主は喜んでくれる。
自社株買いとは、企業が自社の株式を買い取ること。市場に出回る株式の数が減る分、ひと株当たりの利益が増え、株価の上昇につながりやすいとされている。
最近、「安易な自社株買い」に警鐘を鳴らす提言を経済産業省の有識者会議がまとめた。過去10年で自社株買いの総額は増加傾向で、昨年度は16兆円を超えた。東京証券取引所で新規発行される株式が約2兆円しかないことを考えれば、この額がいかに巨大かが分かる。
「貯蓄から投資へ」と政府は訴えるが、肝心の企業が自社株買いばかりしていれば、日本経済の成長を期待することは難しいだろう。