
近年注目されつつある「職場の孤独」。東京カウンセリングオフィスの関本文博所長に、心身へのリスクや孤独に陥りやすいタイプ、対処法などを聞いた。
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「職場の孤独」は心身のリスクに直結することに留意が必要だ。
「同僚のサポートを得られないことがストレスや心身の不調につながり、ひいては死亡率が高くなることも近年の研究で判明しています。つまり、職場で孤独を感じている人は、その後の寿命が短くなるほどの深刻なダメージを受けるということです」
こう話すのは、東京カウンセリングオフィス(東京都千代田区)所長で臨床心理士・公認心理師の関本文博さん(40)だ。
職場の孤独を放置すると、適応障害やうつ、ひいては早死ににつながるというのだ。どういうことなのか、順に説明してもらった。
孤独な人ほど病気になりやすい
まず、最も多いのはうつ症状。孤独感が抑うつ状態を引き起こす、というのは腑に落ちる。もう一つ、最近注目されているのが「免疫機能の低下」だ。
「孤独な人ほど病気の治りが遅く、風邪などもひきやすくなります。新型コロナの後遺症が長引いたり、重篤化したりするのも免疫機能の低下が要因の一つです」(関本さん)
孤独が引き起こす心身への影響で命の危険に直結するのが心疾患だという。
「過労の人が心臓発作を起こしやすいことは昔から言われていますが、強い孤独を感じている人も心臓の負担を受けやすいことが分かっています」(同)
「無視される」など職場で孤立すると、人間は脳で「社会的痛み」を認知する。これは単なるイメージではなく、実際に「身体的な痛みとして感じる」のだという。
ジョブ型雇用の定着も一因
「職場の孤独」の近年の傾向や特徴はどうなのか。
関本さんのもとに相談に訪れるのは、職場に行けなくなり休職した人がほとんど。社会人経験の浅い20~30代前半が主だという。中でも多いのは「異動」が契機になるパターンだ。
例えば、外回りの多い営業職で事務アシスタントもいて、チーム内で密なコミュニケーションを取り合う環境にいた人が、異動で内勤になって終日パソコンと向き合い、同僚ともほとんど会話をしない状況に置かれると孤独感が募る。
また、「終日パソコンと向き合う仕事」の課題について関本さんはこう指摘する。
「チームではなく、個人で完結するノルマやタスクをこなす業務の場合、同じ部署で机を並べている同僚にも助けを求めたり、困りごとを共有したりしにくくなります。そうなると、仕事がはかどらないのはすべて自分の責任だと感じ、孤独が深まる傾向があります」
こうした人が目立ち始めたのは、2020年前後にジョブ型雇用が広がった時期と重なるという。
コロナ禍以降は別の要素も加わった。オンライン会議の普及だ。部内会議だと、参加者全員がカメラをオフにしていることが少なくない。以前から同じ部署にいる人どうしであれば、カメラをオフにしていても会話の間合いや相手の表情も思い浮かべることができる。しかし、異動してきたばかりの人はカメラがオフだと相手の顔や年齢すらよく分からない。この「把握感」が得られないモヤモヤを抱えた状態では、いつまでたってもチームになじめない。かといって、自分だけカメラをオンにするのは浮いてしまうし気がひける。
「そうなると異動したばかりで、かつ社内のネットワークや関係づくりの蓄積が少ない30代前半より若い人を中心に孤独感から抜けられず休職に至る、というケースが典型例として相次ぐことになります」(関本さん)