一方、吉沢さん演じる喜久雄にはまた別の凄さを感じて。「この一瞬に懸けた踊りなんだ、この瞬間のための1年半だったんだ」と思わされました。その気迫みたいなものは、本物の歌舞伎を前にしても、感じたことがないものでした。
人生の懸け方
吉沢:人生でもう一度同じことはできないと思います。実際に京都の劇場の舞台で踊れたことも大きかったですね。一瞬にすべてを懸け、その瞬間だけ良ければあとはなんでもいい、というか。人生の懸け方みたいなものは、もしかしたら喜久雄に通じるものもあるのかなとも感じました。
舞台の上で喜久雄が見る景色が広がっていくにつれ、舞台から降りた後の世界の色がくすんでいく。喜久雄の人生が舞台の上の世界に、どんどん吸い取られていく。原作を読んでいる時も、撮影中もどこかそんな感覚がありました。「いまこの瞬間、見えないものを見るためだけにすべてを注ぐ執念」というか。
吉田:それは本当に伝わってきました。きっとそこですね、この映画の素晴らしさの根底にあるのは。
(構成/ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2025年6月9日号より抜粋
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