
「絶対に成功してやる、みたいなメラメラしたものも、自己肯定感も野球でなくなっていたから、楽しそう、くらいの軽い気持ちで、弁護士より芸人のほうに体重を乗せられたのかもしれないですね」
芸人修業、恋愛、サンドウィッチマンの富澤たけしさんからの言葉など、激動の20代が描かれている。
「書くために昔の傷を見るのはつらかった。でも、半分は自分のためであり、もう半分は似たような経験をした人に届くことが書ければいいなと思っていました」
書きたいように書いたから、自分の一部を切り離して本に収めたような充実感がある。
フィンランドに行ったのは、幸福度ランキング1位という調査結果を見たからだ。
「日本では否定的な言葉で人を評価したり、比較されて自分自身に低い点数をつけたりすることがよくあるけど、フィンランドには、できないのが当たり前、できることがあるなら生かせばいい、という考え方がありました。人に優しくなれますよね」
よほど水が合ったようで、帰ってこないのではと編集者が心配するほどだった。
「僕の仕事は人の評価を受けざるを得ないし、競争を強いられる。バランスを取るために、帰国後はスマホを見るのを1日1時間以内にした。評価を気にしないのは難しいけど、救われ始めています」
自分を救うもう一つの方法として、公園に座って木を見る時間をつくっている。
「こうあるべきという声が聞こえない場所にちょっとずつ自分を移動させる。社会と切り離した時間を持つことで、円形脱毛症だったところに産毛が生えてきました」
魂の叫びがぎゅうぎゅうに詰まった『自意識のラストダンス』は、読む人の自己肯定感も上げてくれる。
(ライター・仲宇佐ゆり)
※AERA 2025年6月9日号
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