
昨年11月に刊行された『貧困と脳 「働かない」のではなく「働けない」』(幻冬舎)、今年1月刊行された『格差の“格”ってなんですか? 無自覚な能力主義と特権性』(朝日新聞出版)。
それぞれの著者、勅使川原真衣さんと鈴木大介さんが「働く」を軸に、「能力が評価されるということ」「働きたくても働けない人の能力をどう評価するか」について忌憚なく語り合ったスペシャル対談(4月18日、三省堂書店神保町本店にて開催)。その後編をお届けする。
* * *
あらゆる人を見捨てず包摂するために
勅使川原:能力主義を突き詰めていけば、より優れた社会になっていくはず。
みんなそんな幻想を抱いているのかもしれません。でも、今、そうして多くの人たちが目指していること、やっていることは、この社会において分断のためにやっているのか、包摂(排除の対義)のためにやっているのかっていう視点で考えたい。そうすると、わかりやすいんじゃないかと思うんです。
鈴木:現実は、どう考えても分断が進んでいますよね。
勅使川原:分断したままこの人口減少社会を突き進んで大丈夫なの? そう考えると不安になりますよね。能力主義=人材の精鋭化だから、数を絞っていくんですよね。
鈴木:そこでそぎ落とされた人たちを包摂していかないと、最終的に社会そのものが立ち行かなくなると思います。自身が障害当事者として思うのは、現状の基準で労働市場からそぎ落とされた人たちの多くは、環境と条件が整えば十分働ける人たちだということ。
勅使川原:現状、声が大きいのは大企業ですから「労働」について語ろうとすると、どうしても企業社会が中心になりやすい。でもね。大企業って、人に困ってないんですよ。「掃いて捨てるほどいる」から、「あいつはあれができない」「ここがダメだ」って選抜を繰り返して、精鋭化する。それを見た中小・零細企業の人たちも「大企業にならえ」って、同じ思考に陥ってしまう。そのことこそが問題だと思うんです。
「僕たちこそ少人数なんだから精鋭化しなきゃ生き残れない!」
「もっと優秀な人材が集まるようにしなきゃ」
ってみんな言う。違いますって! 限られた人材だからこそ、互いに能力を活かしあうことを考えるべきなんです。
鈴木:勅使川原さんて、パンクですよね。視点の持ち方が。自分のアプローチが一番伝わらない人に対して、最もアプローチしようと考えるじゃないですか。まずは為政者を変えねばならない! とか。
勅使川原:(笑)そうなのかな。