
基本操縦課程をフライトシミュレーターに代替
たとえば、2022年1月31日、空自小松基地(石川県)所属の戦闘機F15が日本海に墜落したケースでは、取りやめていた同型機の飛行訓練を墜落事故から約1カ月半後に再開した。この判断について、岸信夫・防衛相(当時)は、「原因究明と再発防止に全力を挙げる。今後も自衛隊機の飛行の安全に万全を期す」と強調した。
現在、自衛隊ではT4を用いてきた基本操縦課程をフライトシミュレーターに代替えしているが、日本を取り巻く安全保障環境を鑑みて、実機に搭乗できない期間が長くなれば「パイロットの養成に支障をきたす」と判断する可能性はあるという。
「その場合、練習機として運用が再開される可能性はあると思います。もちろん、基地周辺の住民の不安を取り除くために、丁寧な説明が必要です」

万博での飛行は「展示飛行」
では万博開催期間中にブルーインパルスの飛行も再開するかというと、「それはまた別の話」だと松家教授は指摘する。万博での飛行は訓練ではなく、空自の存在を多くの人々に知ってもらうための「展示飛行」――つまり、「広報活動」だからだ。
もし、墜落原因が究明されないまま展示飛行を再開すれば、墜落した飛行機と同型機を飛ばすことについて安全面を懸念する人が出てくる。
「ブルーインパルスの展示飛行再開は、事故原因の究明がなされ、十分な安全対策がとられ、国民や基地周辺の住民の理解が得られてからになると思います」
事故機にブラックボックス搭載なし
それまでに、どのくらい時間がかかるのだろうか。
防衛省は、航空事故調査報告書を事故発生日から原則4カ月以内に防衛相に提出することを訓令で定めている。
ギリギリ万博の閉幕に間に合う可能性もありそうだが、「今回の事故原因の調査は非常に難航すると思われる」と言う。
事故機には、いわゆる「ブラックボックス」が搭載されていなかった。特に機体やエンジンの状況を逐次記録する「フライトデータレコーダー」がないため、事故原因の究明には時間がかかるとみられるという。
「回収された残骸についてはおそらく、機体やエンジン、電装品などのメーカーの協力を仰ぎながら、事故時の状態やその原因について、地道な分析が進められると思われます」