77年春に市立札幌旭丘高校を卒業し、中央大学商学部へ進む。父から「後を継げ」とは言われていなかったが、将来を考えて経営学科を選ぶ。『源流Again』で甲府市を訪ねた日の朝、神田駿河台の大学キャンパスがあった地も訪ねた。校舎は移転、街の光景はすっかり変わった。よくいった喫茶店も、消えた。でも、校舎があったところに立てば、次々に思い出す。
1年生の教養課程からマーケティングのゼミへ入り、価格戦略や販促策などを学ぶ。就職は、たくさん知った「理論」に「現場」でいろいろ経験を加える道へ進んだ。
駿河台で懐かしいのは、マーケティングだけではない。麻雀(マージャン)を楽しんだ雀荘もある。当時は周辺に何店もあり、どこも学生たちで満卓だった。インターネットもスマホもない時代、麻雀はコミュニケーションの場でもあったし、友人ができる機会にもなる。
父が85年1月に亡くなり、父の弟が社長を継ぎ、2001年3月に社長になった。以来、「ラーメンは食文化」と言い続けている。麺だけではラーメンにならず、個性を持つたれや様々な具と組み合わせて多様な味となるからだ。
いま力を入れているのが、各地の特産品や季節の素材を活かすラーメン向けの麺やたれの提供だ。北海道ならメンマの代わりにアスパラガス、チャーシューではなくサケという試みもある。欧州ではパスタソースを使うカルボナーラ風ラーメンもあり、ドイツやアメリカではスパイシーな味付けが好まれる。
これらに使われる麺も、服のオーダーメードと同じで、一つ一つ、客の要望に合わせてつくる。いま札幌市白石区にある本社に厨房と約30の客席を備えた部屋を設けて、客と一緒に開発し、開業したい人には調理の研修もする。これも、「すべては客の満足」という答えが生んだ『源流』からの流れだ。
個人としての夢も、ある。アイスランドで冬の寒い日に温泉へ浸(つ)かり、オーロラを観ながら、みそ味の札幌ラーメンを食べたい。これだけは「すべては客の満足」ではないことを、許してもらいたい。(ジャーナリスト・街風隆雄)
※AERA 2025年6月2日号
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