『歩いて読みとく地域経済 地域の営みから考えるまち歩き入門』(2200円〈税込み〉/学芸出版社)普段のまちを地域経済の視点で観て、写真と地図を多用して解説した〈地理の副読本のような「まち歩き本」〉。一枚の写真に写り込んでいるものから、各地の産業の成り立ちにさかのぼっていく。コンビニが各地に増える仕組み、地獄谷と呼ばれたガード下の歓楽街の行方など、著者独自の観察眼で捉える範囲は広くて深い。第1章のまち読みの視点で、実際にまちを歩いてみると楽しい
『歩いて読みとく地域経済 地域の営みから考えるまち歩き入門』(2200円〈税込み〉/学芸出版社)普段のまちを地域経済の視点で観て、写真と地図を多用して解説した〈地理の副読本のような「まち歩き本」〉。一枚の写真に写り込んでいるものから、各地の産業の成り立ちにさかのぼっていく。コンビニが各地に増える仕組み、地獄谷と呼ばれたガード下の歓楽街の行方など、著者独自の観察眼で捉える範囲は広くて深い。第1章のまち読みの視点で、実際にまちを歩いてみると楽しい

「今の世の中は経済合理性が進みすぎて、まるで5次方程式のように何でこうなっているのかがさっぱり読み解けない次元で物事が動いているように見えます。地理の副読本はある場所にフォーカスして、この複雑な現代社会をどうにか了解可能な形で追いかけている。地域経済はその仕組みを知らないとわかりにくいので、いくらかでも咀嚼できる形で示したいと思って副読本をイメージしました」

 本書では農林水産業、製造業、流通業、サービス業、開発と多岐にわたって地域の経済活動を紹介している。最初に現地で撮った一枚の写真を見せて、そこから何が読み解けるのかを解説。港に停泊する漁船、ノコギリ屋根の建物、水が流れていない川など写り込んでいるものはさまざま。山納さんの含蓄のあるナビゲートから、営みの変遷が高解像度で見えてくるよう。

「地域経済の視点からまちを観て感じたのは、企業活動がスケール化して全国や世界で生産や販売するようになると、どこも同じような風景に変わり、地域独自の経済には見えなくなる。地域にとって望ましい経済を今一度考え直したいと思って書きました」

 金融機関のトピックでは、銀行の建物の写真から、看板の説明に書かれた「無尽」という2文字に着目。相互扶助の仕組みから始まった金融機関が存在した史実にいざなう。この話を含む締めの章「コモンズ──わたしたちの経済圏」は、足元の暮らしから、気持ちがこもったお金のまわし方を考えたくなる内容だ。

「経世済民(けいせいさいみん)と呼べるような、人々が顔の見える関係性の中で助け合えるような経済活動。コモンズをキーワードに、地域内でどう経済循環を生み出すのかを考える材料を集めました。そこに面白みや希望を見いだしています」

 顔の見える所から「もう一度、地域経済」とまなざしを注ぐ。

(ライター・桝郷春美)

AERA 2025年5月26日号

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