バレエや吹奏楽でも起こる

 いくらタイムを競う“ライバル”とはいえ、親がこのような暴言を吐くとは信じがたいが、実は、スイミングスクールでは似たようなトラブルは少なくないようだ。ネットに書かれている事例だけでも、「あの親は声がうるさい」という不満から、スクールの指導方針を巡って保護者同士が対立したり、タイムの速い子に子どもや親が嫌がらせしたりする深刻なケースまで、さまざまなトラブルが散見される。

 実際、近年は「ジュニアスポーツの応援における親の不適切な言動」は問題視されている。「応援席ハラスメント」という専門用語もつくられ、臨床心理学やスポーツ教育の研究課題となっているのだ。

 応援席ハラスメント研究の第一人者として知られる東京未来大学の藤後悦子教授(臨床心理学)は「水泳やゴルフ、スケートのような個人競技だけでなく、野球やサッカーといった団体競技でも応援席ハラスメントは起こります。さらに言えば、スポーツだけでなく、バレエや吹奏楽といった分野でも実例を確認しています」と話す。

 藤後教授が最初に応援席ハラスメントに気づいたのは10数年前。小学生だった長女が強豪として知られるミニバスケットボールのチームに入り、小6でキャプテンを務めた時のことだ。

「娘を応援するため試合を見学すると、コーチが小学生の選手たちに『お前は(チームに)いらない』『お前、意味ない(存在だな)』といった暴言を連発しているので驚きました。私は保育と育児の現場で長年、臨床や研究を重ねてきましたが、保育の現場なら、このコーチの発言は“一発アウト”です。そしてコーチによる暴力的な指導が常態化しているチームでは、保護者も子どもたちに罵声を浴びせていることに気づいたのです」

 試合で選手がミスをすると、わが子であっても他人の子であっても「何をやっているんだ!」と保護者が罵声を浴びせる。わが子が他人の親に怒鳴られた保護者も、「チームが強くなるためには仕方ない」と受け入れてしまう傾向があるという。

次のページ 教育虐待の問題とも通底