春風亭一之輔・落語家
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 人気落語家・春風亭一之輔さんの新刊『ドグラ・まくら』(朝日新聞出版)が5月9日に発売される。お題に応えて、日々のよしなしごとをつづった珠玉のエッセイだ。「AERA DIGITAL」で連載中の一之輔さんのコラム「ああ、それ私よく知ってます。」から、編集部が選ぶイチオシ回をお届けする(この記事は「AERA dot.」に2024年9月8日に掲載されたものの再配信です。本文中の年齢、肩書等は当時のもの)。

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 落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「堪忍袋」。

「堪忍のなる堪忍は誰もする。ならぬ堪忍、するが堪忍。堪忍の袋を常に胸に下げ、破れたら縫え、破れたら縫え」

 古典落語「天災」に出てくる心学者・紅羅坊名丸が乱暴者の八五郎を諭すときに用いる一節だ。

 なるほど、堪忍袋というモノは「首から掛けている」イメージなのか。常に携帯するべきモノとは思わなかった。家の中の、他人の手の入らない、内緒の場所に隠しておくべきものだと思っていた。

 「たとえ」なのはわかっている。我慢・辛抱をためる器を「袋」にたとえているのだろう? 俺だって知ってるよ。

 でも、想像してみたい。

 だってそんな袋に紐をつけて首に掛けて胸の前にぶら下げていると、「あ、あの人……今、堪忍袋がパンパンじゃん! 膨れてるじゃん! もうギリギリじゃん! このままいくと破裂しちゃうんじゃね!?」と行き交う人に、知れてしまうじゃないか。恥ずかしい!

 だから、なるべくなら持ち歩かず他人の目のつかない所に置いて出かけたい。家の台所の隅にでも置いといて、いっぱいになったら45リットルのポリ袋に移し替えて、燃えるゴミの日に捨てればいいじゃない?

 どうしても携帯しなきゃならないのなら、かさばる袋よりは、財布に入るような薄手の……もういっそのことカードにはならないだろうか? そうだ、堪忍袋をポイントカードにしよう。今の技術をもってすればマイナカードに紐付けも可能だろう。ねぇ、河野デジタル大臣?

 怒りをポイント化してカードに貯めておこう。

 街の至る所に「鬱憤ステーション」みたいなものがあって、顔認証パネルを覗き込むと、体温・表情・脈拍を測定し、その人の鬱憤を数値化してくれる。横には漏斗型の集音マイクがあってそこに口をつけて叫ぶとその音量の数値も合わせて、カードにその数を鬱憤ポイントとして加算してくれる。

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