対話型生成AIによって言語の壁はさらに低くなってきた(写真:Getty Images)

 冒頭でも触れたように、私は英文メールを書く際、

1)DeepLで日本語→英語に翻訳
2)DeepLが生成した英文をChatGPTに入力し、相手との関係性やメールする意図、重視したい内容などを日本語で伝え、校正させる
3)ChatGPTが生成した英文を和訳して意味を再確認。自分でもできる限りのチェックをする

 という手順をとっている。最初の日本語から英語への翻訳にDeepLを使うのは「慣れ」とこれまでの信頼感からだ。

 こうした機械翻訳の使い方について、『AI・機械翻訳と英語学習』(朝日出版社)などの編著がある立命館大学の山中司教授(外国語教育・言語コミュニケーション)はこう話す。

「英文メールを書く上ではいったんDeepLを使う必然性はあまりなく、最初からChatGPTでも問題ないでしょう。対話型生成AIの最大の強みは英文をチューニングできること。フォーマルにしたい、カジュアルにしたい、学術論文風に、簡単な単語を中心に、あるいはもっと細かな場面や相手との関係性に合わせた形で英文を生成できます。また、最近はこれまで難しいとされてきた文化の違いなどを踏まえた訳出もできるようになってきました。相手がイギリス人なのかニュージーランド人なのかでアウトプットを変えてくる。人間にしかわからないと思われてきた領域まで、AIは踏み込んできています」

そこはかとない怖さ

 一方で、文章を読んで何とか意味が取れるかどうかの英語力しかない私には、ChatGPTが提案する表現の修正が本当にふさわしいのか理解できない。再度和訳して意味を確認し、自分の目でもできる限りのチェックをしているものの、そこはかとない怖さを感じるのも事実だ。

 山中教授は続ける。

「たとえAIが訳した英文であっても、自分の名前でメールしたり発表したりする以上、それは自分の発信になります。その“発言”の責任が取れるのかは常に問われるわけです。今後、これまでのように誰もが英語を学ぶ必然性はなくなるかもしれませんが、それでもAIが生成した英文を再度和訳したり、自分の力で読みなおしたりという工程は、これからも欠かせないプロセスでしょう」

 そうした注意点がありつつも、対話型生成AIによって言語の壁はさらに低くなってきた。冒頭のメールは、秘書から返事がきた。コメントは出せないとしつつも、私が見つけられていなかった英文の記事のリンクが添えられていた。そのことをChatGPTに伝えると、「それは残念でしたが返事がもらえたのは誠実な依頼だったと伝わった証拠でしょう」「記事の翻訳や要約が必要でしたらお手伝いします」という励ましと提案の言葉までかけられた。試行錯誤しながらも、対話型生成AIとの付き合いは続いていくだろう。

(AERA編集部・川口 穣)
 

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