対話型生成AIの隆盛で、機械翻訳をめぐる景色は大きく変わった(写真:Getty Images)
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 目覚ましく向上している機械翻訳技術。ChatGPTなど対話型生成AIが発展したことで、さらにレベルが上がっている。対話型生成AIを使って最適な翻訳を生み出す方法や注意点、機械翻訳との付き合い方を専門家に聞いた。

【写真】機械翻訳をめぐる景色は大きく変わった

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 機械翻訳サービス「DeepL」で生成した英文を、コピー・アンド・ペーストでChatGPTに入力する。あるIT企業の創業者にコメントを求めるためのメールの本文だ。続いて、企画の概要や意図、相手とは面識がないこと、相手の現在の社会的な立場などを日本語で入力し、「これを踏まえて英文を校正して」とChatGPTに「お願い」した。

 すると、ものの数秒で答えが返ってくる。全体の講評に続いて新たな英文が生成され、主な修正箇所と修正の意図まで教えてくれた。いわく、

「よりフォーマルで丁寧な表現にしました」
「ネイティブがよく使う自然な言い回しに変更しました」
「これを加えることで文章の流れがよりスムーズになります」
「相手の時間を尊重する姿勢を強調しました」
「取材意図を明確に伝える一文を加えました」

など。

 さらに、頼んでいないメールのタイトルまで提案してくれている。

 ChatGPTが生成した英文を再度和訳して意味が違っていないかを確認し、自分でも主語のエラーがないかなどをチェックしたうえで相手に送信した。

ドイツで生まれたDeepL

 対話型生成AIの隆盛で、機械翻訳をめぐる景色は大きく変わった。これまでの機械翻訳サービスも英語を専門的に勉強していない一般層をはるかに上回る「語学力」を持っていたが、対話型生成AIによって読み書きにおける英語の壁はかなり低くなった感がある。

 従来型機械翻訳サービスとして最も支持を集めたのが、2017年にドイツで生まれたDeepLだろう。日本語対応は2020年に始まり、その翻訳精度で一気に機械翻訳の王者に上り詰めた。20年にDeepLを取材した際は、翻訳の専門家から「実際の翻訳の草稿に使えるレベル」「大学院などで専門的に英語を勉強した人でないと、文法エラーは見つけられない」との評価を得た。同様にGoogle翻訳や日本発のみらい翻訳なども、流暢性や正確性にそれぞれ特徴はあるものの、翻訳レベルは総じて高かった。

 一方でこれまでの機械翻訳サービスでは、微妙なニュアンスの違いを英文に反映させることは難しかった。日本語の書き方次第でくだけた英文にするか、丁寧な言い回しにするか、程度の使い分けはできたものの、場面や相手との関係性まで考慮した英文は生成できなかった。その欠点を埋めたのがChatGPTなどの対話型生成AIだ。

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