
きゅーりさん(18、仮名)は母親からのネグレクトに苦しみ、トー横で市販薬の過剰摂取、オーバードーズを始めた。行き場を失い、傷つき、倒れた彼女を救ったのが、NPO法人「ぱっぷす」だった。
10代、20代の生きづらさを取材し続けた朝日新聞記者、川野由起さんの著書『オーバードーズ くるしい日々を生きのびて』(朝日新書)は、救いを求める子どもたちの胸中、と子どもたちに救いの手を差し伸べる人々の思いを多数収録している。今回は、オーバードーズの日々と向き合ったきゅーりさんの心からの叫びを、本作から抜粋・再編集して掲載する。
※年齢は取材時のものです。
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出会いは人生の全てだ
ぱっぷすでは、都内の繁華街で若年女性らに声かけをする「アウトリーチ」を行う。
「親から逃げている」「性暴力を受けた」「オーバードーズや自傷行為が止まらない」といった子どもや若者を、安心して過ごせる「夜カフェ」に来てもらうなどし、相談を聞いたり必要な支援につなげたりしている。
22年度には4000人以上に声かけをした。また、性的画像や動画が拡散されるなどの被害をなくそうと、関係機関への削除要請などを行う。
22年度には1万6000件以上の削除要請に対応した。こうしたアウトリーチのなかでスタッフときゅーりさんが出会った。
「なぜオーバードーズやリストカットをしてしまうのか」を考えるきっかけをくれたのも、スタッフだった。ぱっぷすとつながりができ、スタッフとしても活動し始めた。女の子たちが立ち寄って雨風をしのいだり、話したりできる居場所を提供し、同年代の相談にのるようにもなった。トー横にいたのは1年ほど。ぱっぷすと時々つながりながらも、いまは別の場所でアルバイトをしながら暮らす。
トー横では、「この子たちのために生きているんだ」と思えるほどの仲間に出会うことができた。いつも4人ほどで一緒に行動するメンバーで、一時は共に暮らした。あるとき、つらい気持ちが募って「本当に死んでしまいたい」とひとりでビルの屋上に行こうとしたとき、「姿が見えない」と泣きながらきゅーりさんを捜してくれた。きゅーりさんを見つけた瞬間、心配のあまり顔を殴ってきた。「誰かのためにこんなに泣けるんだ」と思った。彼女たちも含め、当時出会った仲間の多くは、いまはどうしているのかわからない。オーバードーズである日突然死んでしまった仲間もいる。