2022年の出生数が、ついに80万人を割った。国立社会保障・人口問題研究所が推計した80万人を割るのは2033年よりも速いペースで少子化進んでいる。その要因は何か。AERA 2023年4月24日号の記事を紹介する。
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東京の空の玄関口、羽田空港。その目と鼻の先に「都会の限界集落」がある。
「若者も子どももいない。高齢者ばかり」
東京都大田区東糀谷の都営団地「東糀谷(ひがしこうじや)六丁目アパート」。自治会会長の今野奏平(こんのそうへい)さん(85)は、苦笑する。
団地は全5棟で総戸数749戸。高度経済成長期の1970年代半ばにつくられ、当時は若い世帯も多く子どもも180人近くいた。夏はラジオ体操や盆踊り、秋には運動会もあって、子どもたちの声が団地に響いた。
だが、96年の公営住宅法改正で、世帯収入が制限を超えると社会人となった子どもは同居できなくなり、若者は団地を離れた。「新陳代謝」は進まず、高齢化が進む東京でも突出した「限界集落」となった。限界集落とは、65歳以上の高齢者が人口の50%を超えた地域のこと。東糀谷6丁目の高齢化率は63.3%(今年1月時点)と、東京23区で最も高齢化が進む。
今野さんの子どもは、1人は独立し、今は70代の妻と40代の娘との3人暮らしだ。
「子どもの声がしないのは、寂しいね」(今野さん)
東京の特別な地域の話ではない。この風景は、人口減少が進行する日本の「未来予想図」とも言える。
79万9728人──。
2月下旬、厚生労働省が公表した昨年の出生数の速報値に衝撃が走った。統計を取り始めた1899年以降、初めて80万人を割りこむことになったのだ。
国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の将来推計では、80万人を割るのは2033年とされていたが、11年も速いペースで少子化が進んでいることになる。原因を、厚労省の担当者は、「コロナ禍で妊娠や出産、育児への不安が影響したと考えられる」と話す。だが、出生数の減少はコロナ前から続いている。