オンライン取材に応じる立命館大の二宮周平名誉教授(大野和基撮影)

「法案が成立すれば事実婚や婚姻していないカップルのみならず、法律婚夫婦が卵子提供により治療を受けることは実質的に諦めざるを得ない状況になると思っています」

 鈴木さんは、法律婚カップルで卵子提供により今年度に採卵をする予定で治療しており、卵子提供の当事者として記者会見に臨んだ。

「この法案では、コーディネーターや提供者への対価の支払いが禁止されており、無償での卵子提供、精子提供のみが認められます。諸外国では、無償での卵子提供のみを可能とした場合、制度として機能せず、多くの人が国外で治療を受けることになると聞いております」。さらにこう付け加える。

「この法案で私たち日本人は、海外で卵子提供を受けることも、2年以下の拘禁刑という重い刑罰となり、完全に卵子提供自体を受ける術がなくなることになります。産みたいと思う人の権利が国によって奪われるのは、令和の優生保護法です。私は法律が成立すれば違憲による国賠訴訟を起こすことも辞さない考えです。同じく違憲訴訟を起こそうとしている仲間はたくさんいます。しかしながら子どもを授かるという夢は裁判を起こしても戻ってきません」

 立命館大学名誉教授の二宮周平氏(専門は家族法)は、憲法の観点からもこの法案の不備を指摘する。

「この法案では法律婚夫婦に限定されており、事実婚カップル、同性カップル、トランスジェンダーカップル、シングル女性の場合には適切な医療にアクセスすることができません。法律婚か否かによって家族形成という幸福追求が左右されてしまいます」

 フランスは2021年の生命倫理法改正で、生殖補助医療を親になる計画に応えるものと位置づけ、女性カップルやシングル女性がドナー精子で子をもうけ、そして法律上の親になる道を作った。

「こうした先進国の経験から学ぶべきだと思います。憲法24条2項は家族に関する事項に関し、法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならないと定めます。家族形成は個人の幸福追求であり、その選択を保障することこそ、個人の尊厳にかなうものです。これを保障しない今回の法案は、明らかに憲法24条に反する。可決してはなりません」

 この法案を作った議員たちが何を基準にして、時代に逆行するような内容にしたのかはわからない。だが、国会議員は国会審議を通して、この当事者たちの悲痛な声に耳を傾けるべきだろう。

(ジャーナリスト 大野和基)

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