「なんでドナーさんの情報を18歳まで子どもに隠すのですか?」と、会場に響き渡る声で、疑問を投げかける戸井田いちかさん
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 第三者から精子や卵子の提供を受けて生まれた子どもの「出自を知る権利」を保障するとした法案について、激しい怒りの声があがっている。当事者である12歳は「精子提供で生まれた子どもを特別視しないでほしい」と声を振り絞った。

【写真】「怒りで打ちひしがれた」いちかさんの母親も法案見直しを訴える

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「私がこの法案で一番嫌だと思ったのはドナーの国籍さえも分からないところです。法案を作った人は一度子どもの立場に立って考えてみてほしいと思います。しかも、なんでドナー情報を18歳まで子どもに隠すのですか? 私は社会にも言いたいことがあります。精子提供で生まれた子どもを特別視しないでほしいです。普通の子どもと同じです。かわいそうな子どもだと言わないでほしいです」

 12歳の戸井田いちかさんの悲痛な叫びが、記者会見会場に響き渡った。

 いちかさんが批判する「この法案」というのは、今年2月5日、自民・公明・日本維新・国民民主4党によって参院に提出された「特定生殖補助医療法案」。第三者から提供された精子や卵子を使う生殖補助医療の制度を定める法案である。

 提供精子を使う方法は1948年から日本で行われてきた。AID(非配偶者間人工授精)では、子どもが親からその方法で生まれた事実を告知されないことが慣習だったが、大人になってから父親と遺伝的につながっていないことを知るケースが増え、最近は医師も親に対して子どもへの告知を勧めるようになった。しかし、子どもからみると自分の生物学上の父親について知る権利、つまり「出自を知る権利」が今までずっと無視されてきた背景がある。

 ようやく2020年末になって、提供精子・卵子で出産した親子関係について整理する法律が成立したものの、「出自を知る権利」の保障については「2年をめどに検討する」と付則に定められるにとどまっていた。

 そして、2月に提出されたこの法案に対して当事者たちから、激しい批判があがっているのだ。当事者というのは、提供精子・卵子で生まれた子ども、それを利用した親すべてを含む。4月9日には衆議院議員会館で当事者による緊急記者会見が開かれ、その夜、オンラインイベントも緊急開催された。

 いちかさんの母親は、精子・卵子提供、代理懐胎など多様な家族形成を行う人たちのための団体「ふぁみいろネットワーク」共同代表の戸井田かおりさんだ。彼女自身、夫の無精子症により精子提供で姉妹を授かった当事者である。

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