
「私たち当事者は、子どもやドナーやすべての当事者を守るためにも、法整備の必要性を強く感じていました。そんな中で作成された特定生殖補助医療法案を見て、私たち当事者は驚愕し、憤りと悲しみに打ちひしがれました。この法案の問題点は、子どもの出自を知る権利が奪われてしまうことです。18歳未満の子どもにドナー情報を開示することが禁止されます。匿名ドナーの利用も禁止しないため、18歳以降、確実に保障されているドナー情報は、年齢、身長、血液型の3点のみです」
出自を知る権利とは、AIDで生まれた人が、自分がどのように生まれたかという事実を知らされ、望んだときに、ドナーについて特定できる情報が開示され、ときには直接会うことができる権利だと戸井田さんたちは主張する。
「事実婚や同性カップル、シングルなど法律婚以外の人たちが、排除されてしまうことも問題です。その結果、SNSを介する感染リスクの高い選択が唯一残る形になり、いろいろなトラブルが予想されます。この法案は、国内外で、多数派である対価の授受を伴う治療に対して、当事者本人に対して罰則規定まであります」(戸井田さん)
戸井田さんは、オープンチャット内で、この法案について賛成かどうか、というアンケートを取り、全体126人の参加者のうち、120人が強く反対であるという結果を記者会見で示した。反対を含めると125人になる。この当事者の中には婚姻状態にある人もない人もいる。精子提供者も卵子提供者もいる。
筆者が『私の半分はどこから来たのか』(朝日新聞出版)を2022年に上梓したとき、次の法律では間違いなく、子どもの出自を知る権利が保障されるだろうと高を括っていた。もし、この法案が可決されたら、牛歩の前進どころか、逆行になるのではないか。
(ジャーナリスト 大野和基)
