天井をあおぐ永瀬拓矢九段=2025年4月10日、東京都文京区
天井をあおぐ永瀬拓矢九段=2025年4月10日、東京都文京区
この記事の写真をすべて見る

 注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2025年4月28日号より。

【貴重写真】和服じゃない!スマホ片手にデニム姿の藤井聡太さん

*  *  *

 新しい年度を迎え、桜の花が咲く季節。将棋界では、名人戦七番勝負が開幕する。

 藤井聡太名人(22)に永瀬拓矢九段(32)が挑戦する今期の第1局は4月9・10日、東京都内でおこなわれ、134手で藤井名人が勝利。防衛、3連覇に向けて、幸先のよいスタートを切った。

藤井「ずっときわどい局面だったんですけれど。9時間の将棋で、めいっぱい考えることができたかなと思うので。その点がよかったかなと思っています」

 第1局は永瀬先手で、戦型は両者ともに得意の角換わり腰掛け銀となった。

藤井「1日目からけっこう終盤戦のような展開になって」「結局、わからないところがかなり多かったかなというふうに感じています」

 2日目夜の最終盤。藤井は永瀬玉を盤面いっぱいに追い回す、30手以上にも及ぶ複雑難解な詰みを読み切った。

「おそろしいものを見たな、という。(それが)正直な感想ですね」

 解説者・広瀬章人九段の言葉が、観戦した多くの人の気持ちを代弁しているだろう。熱心な将棋ファンであれば、当代の名人がおそろしい技量の持ち主であることは既に知っている。それでも本局でまた改めて、その底力を見せつけられたのではないか。

「詰み手順そのものは、ものすごく複雑ということではないと思うんですけど」

 対局翌日、藤井は淡々とした表情でそう語っていた。この言葉に「はい、そうですね」とうなずける人は、ほとんどいないだろう。

 将棋は対局者二人が競り合わないと、奇跡的な局面は生じない。最強の挑戦者・永瀬が相手だったからこそ、藤井は存分に持てる力を発揮することができた。もちろん、ここから永瀬が巻き返す可能性も十分ある。次戦以降も、名局を期待したい。(ライター・松本博文)

AERA 2025年4月28日号

[AERA最新号はこちら]