生まれ変わった事務所

判決は確定していないとはいえ、長年にわたる暴力の支配から解放されたと感じる地元住民は多いようだ。
福祉活動の拠点となる施設は、来年3月の完成予定という。北九州市の担当者は、こう語る。
「暴力団拠点が街に存在することは、市民に不安を与えるだけでなく、実際に安全も脅かされ、対外的にも『北九州は危ない街だ』と認識されるなど、マイナスでしかありません。そんな暴力団拠点が福祉施設に変わることは、市民の安心や安全にもつながるため、市としてはしっかりと応援をしていきたいと思っています」
かつての「工藤会館」の場所から少し離れた同市小倉南区上貫にも、工藤会の“シンボル”があった。緑が広がる穏やかな地域にある豪邸の門に、10年に突如、「四代目工藤会長野会館」の看板が掛けられたのだ。目と鼻の先には幼稚園や小学校もある。
近隣住民は事務所撤去運動を始め、幼稚園内に監視小屋を設置した。出入りする人を常に見張り、ときには垂れ幕を掲げて抗議の声を上げた。
すると、運動に参加していた自治会長宅に銃弾が撃ち込まれた。工藤会による脅しとみられるが、それでも住民はひるむことなく暴追運動を続けた。その結果、11年に長野会館は地元の医療法人「心愛」がこの土地と建物を1億5千万円ほどで買い取り、介護施設「デイサービスセンター ヴァイオリン」に生まれ変わった。
ここは工藤会が使用していた当時の建物を、そのまま使う「居抜き」に近い状態で活用している。どんな感じなのか見せてもらいたく、中に入れてもらった。
物々しい門をくぐり、建物の内部に入ると、見上げるほどの高い天井に豪華なシャンデリアが輝いていた。和室をのぞくと、任侠映画の「襲名披露」のシーンに登場しそうな趣がある。
そんな建物の一室で、利用者の高齢者たちは笑顔でレクリエーション活動に取り組んでいた。