残る当時の面影、玄関の扉には「鉄板」
「ヴァイオリン」の管理者である野見山耕一さんがこう話す。
「当然ながら、福祉・介護施設である以上、もとの設備をそのまま使っているわけではなく、スロープやトイレの増設などの修繕はしました。ただし、基本的な建物の構造は変えていません」
介護施設といえば、まず気になるのはバリアフリーだが……。
「部屋は広いですが、『段差はなるべく少なく』というバリアフリーのセオリーには対応していません。特に風呂場は最も注意が必要な場所ですが、すべて大理石でできています」(野見山さん)
すべてが大理石の風呂など、テレビや映画の世界でしか見たことがない。こうした内装はいずれも豪華だが、実際には老朽化が進んでおり、維持費も相当かかるという。
「シャンデリアの電気を消そうとしてもつきっぱなしになったり、配線が現在のものとは大きく異なるため、電気工事業者も手を焼いたり……。昨年の夏にはエアコンが故障。見積もりを取ったところ、同じものを設置しようとすると、とんでもない金額になると言われました」(同)
ソファも当時のものを使用している。座り心地は良いものの、高齢の利用者が座るとお尻が沈み込み、立ち上がるのに一苦労だ。それでも、この施設の知名度向上には一役買っている。
「地元の人たちには『あっこね(あそこね)!』と言われるほど有名な場所です。利用者さんたちも『中はこんなふうになっているのね』と興味を持ってくれます」
野見山さんは、周囲の反応についてそう話した。
工藤会がこの建物を所有していたのは1年にも満たないが、ニュースでたびたび報じられてきたこともあり、それがデイサービスへと変貌を遂げたというインパクトは大きい。現在も、工藤会の元幹部らの裁判の進展があるたびに、地元メディアが取材に訪れるという。
“いわく付き”の建物であるため、「工藤会ゆかりのものは残っていないか?」と尋ねられることも多いが、ここで働くスタッフにとっては特に違和感はないそうだ。ただし、玄関の扉には鉄板が入っているなど、当時の面影は一部に残る。
「今や老人ホームも買収される時代です。団塊の世代の入居が落ち着いた後の先行きは不透明ですが、こうした建物の話題性によって注目されるのはありがたいことです」
野見山さんはそう話し、こう続けた。
「利用者の方々とも『夕方になると、スタッフが怖い人たちに変わりますよ』などと冗談を言い合っています。不謹慎かもしれませんが、こういった話題で笑い合えるのは、ここの利用者ならではの楽しみ方なのかもしれません」
念のため付け加えると、野見山さんをはじめスタッフ全員「カタギ」である。
(編集部・古寺雄大)