●富山、福島、沖縄、大阪 各地の話題は短く遅い枠に集中
各局の夜のニュースを見ていて、編集者の力量に疑問を抱くことが多くなった。まず困るのは、ニュースバリューを判断するにあたって、視聴者の興味を必要以上に重視していることだ。つまりお膝元の東京の視聴者迎合、視聴率重視の編集が行われ、その結果、伝えねばならないニュースを落とす一方、東京ローカルのニュースを平気で大きな扱いで全国に送り出すことが横行していることである。その典型例が豊洲市場の盛り土問題だ。
豊洲では専門家会議の提言をうけ、汚染した土壌対策として、深さ2メートルの土を入れ替え、その上に2.5メートルの盛り土を行うことになっていた。ところが実際には、主要な建物の地下には盛り土がなく、地下は巨大な空洞になっていることが判明した。しかもそこに出所不明の水が溜まっていた。いったい誰の判断で、この地下空間は作られたのか。ここには興味をひく話題がてんこ盛りだ。まずこの「いつ」「どこで」「誰が」には、推理小説もどきの面白さがある。さらに都の職員の抜きがたい官僚体質が見え隠れし、食の安全という大きな問題もからんでいて、東京では確かに大事件に違いない。だがどんなに面白く興味津々でも、所詮は東京ローカルの出来事で、話題としてはともかくとして、トップや準トップで連日伝えるほどのことではない。少なくとも大阪ではそう見える。
ところが地下空間の映像が初めて公開された9月14日には、各局とも夜のニュースでこの問題を大々的に扱い、トップに据えた局もあった。しかし本来この日のトップは、スーパー台風と富山市会議員の領収書偽造問題だろう。またその他、福島県では原発事故の影響を調べる県民健康調査検討委員会が開かれ、子どもの甲状腺がんが議題になった。これも伝えてほしいニュースだが、扱ったのは「NEWS23」(TBSテレビ)と「報道ステーション」(テレビ朝日)だけ。さらに同日、自民党の二階俊博幹事長が沖縄を訪ね、翁長雄志知事と会談している。前日には東村高江地区の米軍基地ヘリパッドの建設に、自衛隊ヘリが初めて動員されたばかりである。それとあわせ、一言でもいいから伝えてほしいところだが、扱ったのは「NEWS23」だけだった。これはひどい。
同様のことは9月16日のニュースでも見てとれた。この日、豊洲の地下空間が報道陣に初めて公開され、1局を除くすべての夜のニュースが、トップ項目で記者リポートも交え伝えていた。しかし同じ日沖縄では、辺野古沿岸部の埋め立て承認をめぐり国と県とが争う裁判で、福岡高裁那覇支部が「政府の是正指示に従わないのは違法」だとして、県敗訴の判決を下している。これは沖縄に基地が集中していることの理不尽さを裁判所が認めなかったのに等しい判決で、ニュースはむしろこちらだろう。だがどの局も扱いは豊洲に比べてはるかに小さく、「NEWS ZERO」(日本テレビ)と「ユアタイム~あなた時間~」(フジテレビ)にいたっては最終項目。日本テレビは1分半、フジは30秒で片づけていた。
基地問題の背景には、戦中戦後の沖縄の長い歴史がからんでいる。それだけにこの判決は、日本人の一人ひとりが「基地問題はどうあるべきか」を考えるのに絶好の機会だった。
だがそのような機会とするどころか、鶴保庸介沖縄・北方担当相が判決前に語った「注文はたったひとつ、早く片づけてほしいということに尽きる」という無神経な発言も見過ごしている始末である。本来はこの発言が、この日の最大のニュースかもしれぬのに、取り上げたのが「報道ステーション」だけとは何故なのか。沖縄県民が苛立つのも無理はない。