66年前の1959年4月10日、上皇さまと上皇后美智子さまはご結婚された。美智子さまは当時、列車の窓ガラスから手を振る人びとを目にして、「皇室は人びととの、柔らかな結び目のようにして存在している」、と感じたという。おふたりがともに支え合いながら皇族として3人の父と母として歩まれてきた日々を、写真とともに振り返る。

広い畑の中にいる女性たちに手を振って
「世紀のご成婚」から1週間が過ぎた1959年4月17日におふたりは皇居を出発し、ご結婚の報告のため伊勢神宮(三重県伊勢市)と神武天皇陵(奈良県橿原市)を訪れた。おふたりは列車の広いガラス窓から沿線に続くお見送りの人波に手を振っていたが、しばらくすると人も途切れ車窓の風景は畑へと変わった。
美智子さまと長く親交のある絵本編集者の末盛千枝子さんは、著書『根っこと翼』のなかで美智子さまの回想としてこう綴っている。
「広い畑の中に立って、一人の女性が一生懸命に手を振っている。皇太子殿下のおそばでお応えになっていると、少し先でもう一人、女性が同じようにして熱心に手を振っている。(略)かなり距離を置いたこの二人の女性が、広い畑の中でお互いの姿に気付いたのか、今度は二人向き合って、よかったね、というように優しく手を振り合っている――」
美智子さまは、その姿が忘れられない思い出として記憶に刻まれた、と末盛さんに話し、こう続けた。

「皇室が、静かに、柔らかく、何かの結び目のようにして存在しているのではないか、という、ふとした、そして嬉しい気付きのようなものだった――」
さらに美智子さまは「人々の喜びとなり、結び目となっておられる皇太子殿下(現・上皇さま)の存在に自分が傷をおつけするようであっては決してならない」と思われていた、と末盛さんは回想している。
そうしたご経験もあり、昭和の時代は東宮家として、そして平成からは天皇、皇后として国民の「結び目」のような存在となるべく、おふたりは人びととともに歩まれてきた。