85年のプラザ合意では、ドル高是正のために主要5カ国が協調して通貨介入を行いました。しかし当時と比べ、現在は地政学的緊張が高まり、国際的な協調ははるかに困難です。トランプ氏はウクライナ支援に後ろ向きで、NATO(北大西洋条約機構)の存在意義にも疑問を呈し、カナダにすら敵対的な態度を見せています。こうした姿勢が各国の信頼を損ない、国際的な協調による通貨合意の実現可能性を著しく下げているのは否めません。
また、「ドル高=製造業不振」という単純な構図にも批判があります。多くの先進国で製造業の雇用比率は構造的に減少しており、為替だけを原因とするのはやや短絡的と見る専門家もいます。
ドル安は二面性を持つ
それでも、もしマールアラーゴ合意が実現すれば、金融市場や為替レートには大きな変化が起こり得ます。ドルが意図的に引き下げられれば、米国の輸出企業には追い風となり、株価の一部には好材料になるでしょう。一方で、輸入物価が上昇し、インフレ圧力が高まることも懸念されます。また、ミラン氏が提案する「米国債の超長期化(例:100年債への転換)」が現実化すれば、債券市場の混乱や、ドルの信認低下を招くリスクも出てきます。
では、私たちの暮らしや仕事には、どのような影響があるのでしょうか。まず個人投資家にとって、ドル安は二面性を持ちます。米国株への投資では、ドル安が収益を押し上げる面もありますが、為替差損リスクも無視できません。特に外貨建て債券や海外不動産に投資している人にとっては、為替の変動が資産価値に直接響いてきます。
ビジネスパーソンにとっては、為替変動による収益の不安定化、さらには関税による価格転嫁の難しさなど、実務的な影響が直撃します。サプライチェーンの再編を迫られる企業も出てくるでしょう。