エスアールエス社長:宇野誠一さん(うの・せいいち)/桐蔭学園高の野球部を経て、大学、社会人とプレー。2021年、エスアールエス設立。昨秋ドラフト4位でソフトバンクに入団した真仁朗は三男(写真:写真映像部・佐藤創紀)

 1インチは約2.5センチ。微妙に長さが変わるだけで打撃の感覚はずれるといい、バットの長さ変更はプロ野球選手でも決断が難しい。

 宇野さん自身、高校、大学、社会人と野球を続けた元選手。長尺バットの難しさを実感を込めてこう解説する。

「バットが長いほうが当然、遠心力がついて打球の飛距離は伸びますが、芯は手元から遠くなり、その分ヘッドを早く出さなければなりません。さらに内角高めの球に対応するには(左打者の場合は)右腕を体に近いところまで引きながらバットを出さなければ芯に当たらない。それでも挑戦できるのは大谷選手が肉体的な強さと技術を兼ね備えているからこそでしょう」

 思い描くままに振り抜くには、高次元の出力と体をコントロールする技術が必要とされる“じゃじゃ馬”バットだが、大谷がそれでも長さを求めたのは、それだけ本塁打にこだわっているからだろう。

今季はさらに長尺に

 こうした大谷の取り組みの影響は大きく、チャンドラーのバットの使用は日本選手の間でも広がりつつある。今春のプロ野球キャンプを視察した宇野さんはこう言う。

巨人岡本和真選手やヤクルト村上宗隆選手といった日本を代表するホームランバッターがチャンドラーのバットを試していました。近い将来のメジャー入りをにらんでのことと見ています。ほかにも中日の細川成也選手など、やはり長距離打者が関心を持っているようです」

 名だたる打者がこぞって関心を示すチャンドラーのバットだが、大谷は驚くべきことに、今季はさらに0.5インチ長くした35インチ(約89センチ)の“超”長尺バットを使用している。もはや指導者用のノックバットと変わらぬ長さだ。大谷はカブスとの開幕シリーズ第2戦で早速本塁打を放ち、その破壊力を見せつけた。

「野球選手にとって理想のバットに答えはない」と宇野さんが語るように、仮に今季、驚異的な打撃成績を残したとしても、きっと大谷は“最高のバット”を模索し続けるに違いない。(編集部・秦正理)

AERA 2025年3月31日号より抜粋

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