
「世界最大の半導体受託製造企業であるTSMC(台湾積体電路製造)の工場が誘致され、さらに増設も決まって、人口が増えていくのは必至の情勢。従業員のための住宅需要もおのずと拡大しますし、近隣に商業施設やホテルなどが増え、地域が活性化することも期待されます」
地方でも超高額物件が売れ始めたという話を聞くと、80年代後半のバブル期を連想する人もいるだろう。だが、日本中の地価が高騰するような現象は再来しないと長嶋さんは説く。ディベロッパーは利便性の高い人気エリアに供給を絞っており、該当する場所の地価や物件価格は今後も強含むが、該当しない場所は日の目を見ないからだ。
価格上昇はごく一部
長嶋さんいわく、日本の不動産市場では「三極化」が進み、すでにその傾向が顕在化してきているという。この三極とは、(1)価格が維持もしくは上昇する地域、(2)なだらかに下降し続ける地域、(3)限りなく無価値もしくはマイナスに陥る地域である。
ただ、三極のうちの「価格が上がる地域」では、局所的にバブルの様相を呈しているようだ。中山さんは次のように述べる。
「東京の都心や湾岸エリア、大阪のうめきたエリア(大阪駅北地区)などでは、購入しても住んだり賃貸に回したりすることなく、1〜2年後に売却するというキャピタルゲイン(値上がり益)狙いの投資が活発化しています」
長嶋さんによれば、大都市圏の高騰物件に共通するキーワードは、「都心、駅前・駅近、大規模、タワー」だという。地方都市においても、再開発を進めている駅前・駅近エリアや、観光客の誘致に成功した自治体の地価は上昇傾向を示している。
逆に先述した(2)や(3)の「価格が下がる地域」は、要するに不便で不人気な場所だ。郊外や最寄り駅から遠いエリアでは、今後も下落傾向が続いていくと長嶋さんは予測する。(3)の「無価値もしくはマイナス」という最悪の結末が懸念されるのは、過疎化が進んでいる地域だ。
「価格が上がる地域は全体の10〜15%にすぎず、70%の土地は価格が下がり続け、残りは無価値もしくはマイナスになるでしょう」(長嶋さん)
もはや都内の新築は高嶺の花と化していることから、中古物件に目を向ける人が急増。その人気ぶりから、中古でも億ションが出てきているという。物件数が限られていることから、さすがにその現象が地方にも波及することはなさそうだが……。(金融ジャーナリスト・大西洋平)
※AERA 2025年3月31日号