大橋貴洸七段に敗れ、B級2組への降級が決まった羽生善治九段(左)=2025年3月6日、大阪府高槻市・関西将棋会館
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 注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2025年3月31日号より。

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 羽生ファンにとっては、胸のすくような会心の勝利だったのではないか。

 3月17日におこなわれた羽生善治九段(54)-服部慎一郎七段(25)戦は58手で羽生の勝ち。藤井聡太棋聖(七冠、22)への挑戦権を争うトーナメントでベスト8に進んだ。

 後手の羽生は横歩を取らせる作戦を取った。コンピュータ将棋(AI)を用いて高度に研究が進んだ現在の将棋界では、やや後手の分がわるいとされる戦型だ。しかし羽生はずっと採用を続け、常に新しい工夫を見せ続けてきた。本局、羽生は踏み込むべきところで踏み込み、大技をかけてもよさそうなところで着実な手を選ぶ、緩急自在の指し回しを見せた。終わってみれば短手数で若手実力者を圧倒。ネット上には羽生の強さを称賛する声があふれていた。

 羽生は現在、日本将棋連盟会長として重責をにない、公務で多忙の日々を過ごしている。とても対局に集中できる状況ではないだろう。史上最高の実績を持つプレーヤーとしては、今年度の羽生は不振だった。順位戦ではB級1組から B級2組への降級が決まった。そうした中で服部戦の圧勝は、改めて底知れぬ実力を見せつける結果となった。

 一方の服部は今年度、朝日杯で藤井を破るなど、すさまじい勢いで勝ちまくっていた。1967年度に中原誠五段(現十六世名人)が打ち立てた史上最高勝率記録(0.855)を上回る可能性をも残して、服部は年度末を迎えた。しかし本局の敗戦により、記録更新は不可能となった。

 中原の最高記録は、若き日の羽生ですらわずかに届かなかった。時代が回り、レジェンドとなった羽生によって記録更新が阻止されたのも、ドラマチックなめぐり合わせだ。

 羽生はこの先、棋聖戦などでタイトル戦に登場する可能性を秘めている。新年度の羽生に改めて期待したい。(ライター・松本博文)

AERA 2025年3月31日号

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