大井川鐵道:大井川鐵道を走るSL「きかんしゃトーマス号」と、同社の社長の鳥塚亮さん(64)。昨年6月に社長に就任し、「ローカル鉄道の再生請負人」として手腕を発揮する(写真:大井川鐵道提供)
この記事の写真をすべて見る

 稼ぐ力が細ったローカル線の廃止の議論が各地で進んでいる。そうした中、復活を遂げようとしている鉄道もある。静岡県の「大井川鐵道」だ。AERA 2025年3月24日号より。

【図表を見る】衝撃の数字! ローカル線の利用者減少がとまらない

*  *  *

 ローカル線には、人を呼び込む力がある。

「ここには『きかんしゃトーマス号』という蒸気機関車(SL)が走っています。このトーマス号に乗るためだけの目的で、わざわざ来てくれるわけです」

 と話すのは、静岡県の山あいを走る「大井川鐵道」社長の鳥塚亮(あきら)さん(64)。大韓航空などを経て09年に第三セクター「いすみ鉄道」(千葉県大多喜町)の社長に就任するとムーミン列車を走らせるなどして赤字ローカル線だったいすみ鉄道を立て直した。19年には、手腕を買われ第三セクター「えちごトキめき鉄道」(新潟県上越市)の社長に就任すると、観光列車「雪月花」などを走らせ観光客の呼び込みに成功し、「ローカル鉄道の再生請負人」とも呼ばれる。

 そして昨年6月、再び手腕を買われ、大井川鐵道のかじ取りを引き受けることになった。

 大井川鐵道は、22年9月の台風15号で被災し、全線の約半分の距離にあたる川根温泉笹間渡-千頭(せんず)間19.5キロが運休のまま。経営は決して安泰ではないが、こう話す。

「鉄道は、地域の広告塔になります」

 観光で人を呼ぼうと考え、「お寺があります」「温泉があります」とPRしても、その数は全国に何千もあって差別化が難しい。だが、「ムーミン列車が走っています」「トーマス号が走っています」という声は、多くの人に届きやすいという。

 鉄道の存在意義は、「地域の人たちにとって心の支え」だと鳥塚さん。ただ、少子化や車社会になって鉄道を利用する人は減り、経営は赤字になった。すると「じゃあいらない」と廃止にしてきたのが日本だ、と言う。

「赤字だから鉄道はいらないという議論になれば、日本の田舎もいらないということになります。ローカル鉄道が走っている地域は、魅力的な場所が多くあります」

 大井川鐵道の沿線は、雄大な自然が残り、静岡県は豊かな食材に恵まれている。1月には、静岡の食材をふんだんに使った食堂車「Train Dining オハシ」の運行を、週末を中心に始めた。料金は1人1万6800円で、定員36人。県外からのお客が多く、好評だと鳥塚さんは言う。

「外から人が来てくれることで地域も潤います。ローカル鉄道の復活は、地域と一体化して、一緒に生き残っていく戦略が重要です」

(編集部・野村昌二)

AERA 2025年3月24日号より

AERA 2025年3月24日号より抜粋

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼