Nレンジは、故障や事故など緊急時に使うもの

 前にも後ろにも進まない、なおかつ傾斜があれば動いてしまうようなNレンジは、なぜ存在するのでしょうか。

 最大の理由は、事故や故障、脱輪などで、車が動かせなくなった状況で、レッカー車などで車を移動する際に使うためです。駆動系から切り離されたNレンジを用意しておくことで、故障によってDレンジで車を動かすことができない場合にも、レッカー移動ができたり、人力で押したりして、クルマを動かすことが可能になります。

 ほかにも、ドライバーが不意の体調不良などで意識を失い、アクセルペダルが踏みっぱなしになってしまった場合に、助手席側からNシフトに入れることで、速度が上がっていってしまうのを防ぐ、ということもできます。最近の電制シフトのPレンジは、車両が停止していないと入らない仕組みになっているので、こうした場合にはまずNレンジに入れ、その後、助手席側からサイドブレーキを引くか、電制パーキングブレーキの場合はスイッチを作動させ続けることでサイドブレーキを利かせます。

 つまりNレンジは、故障や事故など、車に何かしらの緊急事案が発生した場合に使うレンジなのです。

ベテランドライバーはなぜ信号待ちでNレンジを使うのか?

 ただ、中には、運転中にNレンジを積極的に使うドライバーもいます。30年、40年と運転してきたベテランのタクシードライバーに多く、実際タクシーに乗ると、信号待ちなどの車が停止しているときに、シフトをNに入れてサイドブレーキをかけ、ブレーキから足を離して待機する、という光景をよく見かけます。

 彼らがNレンジを使う理由は、「ブレーキペダルを踏み続けると右足が疲れる」ということのようです。Pレンジを使わずにNレンジにする理由は、Pにするには、スイッチを押しながらの操作が必要になるので、Nレンジのほうが便利という理由でしょう。また、Dレンジのままブレーキペダルを踏んでいる際に、何らかの事情によってペダルを踏む足の力が緩んでしまい、クリープ現象によって車が前進(もしくは後退)してしまうことを防ぐという狙いもあるかもしれません。ほかにも、停車中にDレンジだとブルブルとした振動が不快と感じるためNレンジにする、という理由もあるようです。

次のページ