【鹿島】イノベーション推進室 担当部長(宇宙):大野琢也(おおの・たくや)/1968年生まれ、大阪府出身。神戸大学大学院修了後、93年に入社。主として生産施設、物流施設の建築設計を担当。2023年から現職。人類の宇宙移住のための人工重力施設を研究し、新聞やテレビ、書籍などで紹介している(撮影:写真映像部・佐藤創紀)
この記事の写真をすべて見る

 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2025年3月24日号には鹿島 イノベーション推進室 担当部長(宇宙) 大野琢也さんが登場した。

【写真特集】大物がズラリ!AERA表紙フォトギャラリーはこちら

フォトギャラリーで全ての写真を見る

*  *  *

 人類が宇宙で生活する時代を見すえ、月や火星に建設する居住施設を設計した。実際に施工するために何が必要なのか、京都大学と共同で研究を進めている。

「宇宙で生活するなんて子どもの頃は夢でしかありませんでした。それが今では現実味を帯びてきている。人類が平和に宇宙進出するためのシステムをしっかり構築したいと考えています」

 直接降り注ぐ放射線や隕石など宇宙での暮らしを実現するための課題は多い。その一つは重力だ。例えば月の重力は地球の約6分の1。そうした場所で長期間生活すると、体にかかる負担が減り、筋肉の衰えや骨密度の低下を招く。

 宇宙で問題なく過ごすために、月や火星で地球と同じ重力を生み出せないか──。考えたのが遠心力の利用だ。月や火星に設置した施設を回転させることで遠心力を働かせ、人工的に重力をつくり出す。遠心力を用いる構想自体は19世紀末にはあったというが、実現には至っていない。

 月での建築を想定した施設は「ルナグラス」と名づけた。巨大なグラスのような形をしていて、直径は最大約200メートル、高さは約400メートル。1周約20秒で回転させることで地球に近似した環境になる。

 天井や壁の概念はなく、全周の内側のどの部分にでも立つことができる。地球のように空気や水があり、1千〜1万人が暮らせるサイズだ。「地球を見ながら音楽会を楽しむような暮らしが現実になるかもしれません」

 入社以来、生産施設などの設計を中心に手がけてきた。その傍ら独学で宇宙建築を研究し、宇宙進出のために重力がいかに大切かを説き続けた。誰にも相手にされなかったというが、緻密な設計と真剣な取り組みが専門家らの目にとまり、実現に向けて動き出した。社内でもこのプロジェクトの専任として活躍する。

「誰にも受け入れられず、自分の考えが間違っているのかなと不安になることもあった。それでも諦めずに自分を奮い立たせてきてよかったと今は心から思います」

 ただ、本当に人類が住めるようにするためにはまだ課題は多い。月で材料やエネルギーをどう確保するか。安定的に回すためにはどんな技術が必要か。夢を形にする日まで力を尽くす。(ライター・浴野朝香)

AERA 2025年3月24日号

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼